『株式投資』第7章を解体する:GAAP利益のノイズと、調整後利益を鵜呑みにできない理由

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【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資商品・投資行動を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴い、元本割れの可能性があります。投資判断はご自身の責任において行ってください。

ジェレミー・シーゲル著『株式投資(Stocks for the Long Run)』第6版 第7章のテーマは「株主価値の源泉」だ。株価の正体はDCF(割引キャッシュフロー)であり、その源泉は配当だ。自社株買いは配当の代替として機能し、GAAPの利益は時価会計ルールによって歪んでいる。本稿では原文に忠実に整理したうえで、これまでの評価軸に沿って検証する。


【抽出】第6版 第7章の核心的ロジック

A. 株価の正体:ディスカウントキャッシュフロー(DCF)

著者はまず株価の根本的な決定要因を示す。株価は、その株式を保有することで得られる将来キャッシュフローの割引現在価値だ。将来受け取る現金は現在受け取る現金ほど高く評価されないため、割引率(ディスカウントレート)が適用される。この割引率は①無リスク利子率(国債やAAA格証券の利回り)と②リスクに対するプレミアム(株式投資家が要求する上乗せ分)の合計であり、「株主要求リターン」または「資本コスト」とも呼ばれる。

B. 株主価値を生み出す4つの方法

著者は企業が利益を株主のキャッシュフローに変える方法として以下を挙げている。

  • 現金配当の支払い:歴史的に最も基本的な方法。
  • 有利子負債の返済:支払利息を減少させ将来キャッシュフローを増やす。
  • 証券・資産への投資:将来キャッシュフローを増加させる。
  • 設備投資:将来利益を増やすための投資。
  • 自社株買い:将来の1株当たり利益を増加させる。

自社株買いについて著者は重要な点を整理している。自社株買いに応じて売却した株主は現金を受け取る(現金配当とほぼ同じ)。売却しない株主は将来にわたってより大きな1株当たり利益・配当を受け取る。ただし将来キャッシュフローの現在価値は変化しないため、自社株買いは理論的には現在の株価を変化させないと著者は明記している。

自社株買いへの批判論について著者は明確に反論している。「自社株買いは設備投資の代替であり、制限すれば設備投資が増える」という主張に対し、この考えは間違いと著者は述べている。自社株買いは配当の直接的な代替策であり設備投資の代替ではない。自社株買いを制限しても企業の設備投資は増加せず、むしろ現金配当の増加か他の証券への投資に向かうだけだと主張する。また株式市場は企業が設備投資をしすぎていると考えている証拠さえあると付け加えている。

自社株買いが増加している理由として著者は2点を挙げている。①現金配当より自社株買いの方が税務上有利(株主が株式を売却するまで課税が繰り延べられ、売却時にはキャピタルゲイン課税が適用される)。②経営陣・従業員のストックオプションが配当を含まない株価のみを基準としているため、低配当政策が経営陣の利益になる。著者は税制変更が最も効率的な是正手段だと述べている。

C. ゴードン配当成長モデル

1962年にマイロン・J・ゴードンが発案したゴードン配当成長モデルは、株価P=d÷(r-g)という形で示される(d:1株当たり配当、r:割引率、g:配当の期待成長率)。例えば配当が1株当たり5ドル、割引率10%、期待成長率5%の場合、株価は100ドルとなる。

著者がここで強調するのは「配当政策は株価に影響を与えない」という点だ。企業が内部留保を他の資本と同じリターンで運用できる場合、配当性向(利益の何%を配当に回すか)は株価や企業価値に影響しない。今日支払われなかった配当は将来より高い配当を生む内部留保となり、将来配当の現在価値は変わらないからだ。自社株買いに使った場合も同じ結論になる。

著者は具体例で示している。割引率10%・配当10ドル・成長なし(g=0)の株価は100ドル。配当性向を100%から90%に下げて内部留保を1ドル増やし、内部留保に10%のリターンを得た場合、来年の1株当たり利益は10.10ドル、配当性向90%での配当は9.09ドルとなり、配当成長率は1%になる。g=1%・d=9ドルでゴードンモデルに当てはめると株価は依然100ドルだ。

D. 利益と配当の歴史的データ(表7-1)

原文の表7-1は1871年以降の長期実質変数を示している。全期間(1871〜2021年)では実質株式リターンは平均7.1%で、平均配当利回り約4.3%と実質キャピタルゲイン2.59%から構成される。EPS成長率は2.05%、実質配当成長率は1.56%、配当性向は57.2%だ。

戦前(1871〜1945年)と戦後(1946〜2021年)を比較すると、大きな変化が確認できる。

  • 戦前(1871〜1945年):EPS成長率0.67%、配当利回り5.31%、配当性向66.8%。利益の3分の2を配当として支払っていたため、成長資金の調達には新株発行が必要で1株当たり利益の伸びが抑制された。
  • 戦後(1946〜2021年):EPS成長率3.43%、配当利回り3.28%、配当性向49.0%。企業が配当を減らして内部留保を増やしたため、新株発行の必要性が低下し1株当たり利益・配当の伸びが著しくなった。

著者は「配当性向の引き下げと配当・利益成長率の上昇の組み合わせは古典的な金融理論と完全に一致する」と述べており、戦後の株式リターンが戦前をわずかに上回る事実もこの理論と一致するとしている。

なお著者は重要な留保も付けている。「配当性向が引き下げられると、引き下げ期間も含めた実現配当成長率は何年もの間それまでの配当成長率を下回る」という点だ。企業が自社株買いや利益創出の手段をとることで、1株当たり配当の成長率は1株当たり利益や株価の上昇に遅れをとってきた。ただし配当性向がこの水準で安定していれば、理論的には将来の配当期待成長率は過去のトレンドより高くなるとも述べている。

E. 「株価は将来の利益ではなく将来の配当の割引現在価値」という原則

著者はジョン・バー・ウィリアムズ(1938年)の言葉を引用しながら、「株価を将来の利益の現在価値として評価するのは明らかな誤りで企業価値を過大評価する」と強調している。内部留保は後日配当やその他の現金支出として支払われる場合にのみ価値を持つ。無配当のバークシャー・ハザウェイでさえ多額のキャッシュフローが自社株買いや新規投資に使われており、株式価値が真の市場価値に保たれているのは「現在または将来の所有者が資産を売却するか配当を支払う可能性があるから」だと著者は説明している。

F. 利益の3つの概念とGAAPの問題

著者は利益の報告方法を3種類に整理している。

  • GAAP利益(報告利益):財務会計基準審議会(FASB)が認定する会計原則に基づく利益。資産減損・退職費用・工場閉鎖費用・訴訟費用・年金公正価値費用・ストックオプション費用をすべて含む。
  • S&P営業利益:GAAPから資産減損(在庫評価損を含む)とそれに伴う割増退職金のみを除外した、保守的な営業利益。
  • non-GAAP(企業が報告する営業利益):訴訟費用・年金費用・ストックオプション費用なども除外する場合が多く、企業の解釈に自由度がある。non-GAAPが最も高く、S&P営業利益がその次、GAAPが最も低い。

著者はGAAP利益の問題を詳述している。1980年代以降のFASBの時価評価ルール(特に2001年のSFAS第142号・第144号による減損の義務化)により、GAAP利益は不況期に他の指標を大きく下回るようになった。著者は「報告利益がより真の企業収益を表すと思われがちだが、必ずしも真実ではない」と述べ、FASBの保守的基準が「利益に深刻な下方バイアスをもたらしている」と指摘している。

2016年のASU第2016-01号でFASBが時価会計をさらに拡大したことについて、ウォーレン・バフェットは自社の2017年年次報告書で「乱高下と気まぐれな変動をもたらし、バークシャーの利益は価値のないものになる」と批判した。著者はこれを「緩い会計基準を批判してきた投資家によるFASBへの批判として注目に値する」と評している。

また2008〜2009年の景気後退期のGAAP利益の減少率は、GDP下落率が最大5%強だったにもかかわらず、GDP下落率の5倍だった大恐慌期の減少率63%をはるかに上回る水準だった。これはFASBの変更が特に景気後退期に利益を大幅に減少させることを裏付けていると著者は述べている。

G. 四半期決算と市場の短期的反応

四半期決算で株価を動かすのは、企業が発表する業績とトレーダーの予測との差だ。ウィスパー予想(広く流布されないが発表前の株価に影響する予想)は多くの場合コンセンサス予想より高い。これは企業が悲観的な業績予想を出してコンセンサスを上回ろうとするためだと著者は指摘している。過去10年間で四半期決算発表の約65%(最近では70〜75%)がコンセンサス予想を上回っていることがその証拠だ。

なお2000年にSECが採択した公正開示法(FD法)により、経営陣がアナリストに業績を選別的に示唆することは禁じられている。


【検証】第4版(2005年)から第6版(2025年)への差分分析

【的中・維持】理論の骨格が20年後も保たれたもの

  • DCFモデルと配当が価値の源泉という原則:将来キャッシュフローの割引現在価値が株価を決定するというDCFの論理、そして配当こそが株主への最終的なキャッシュフローであるという原則は、第4版から変わらない骨格だ。
  • ゴードンモデルの「配当政策中立性」:企業が内部留保を資本コストと同率で運用できる限り、配当性向は株価に影響しないという理論は、戦後データによって引き続き裏付けられている。
  • 自社株買いは設備投資の代替ではないという主張:著者は第6版でも同じ立場を維持しており、「自社株買いを制限しても設備投資は増えない」という結論は変わっていない。

【修正・追記】予測とのズレが生じ、説明が更新されたもの

  • GAAPのボラティリティ問題の深刻化:第4版時点でもGAAP利益の問題は指摘されていたが、第6版では2008〜2009年のGAAP利益の急落(大恐慌期の減少率63%をはるかに上回る水準)と2016年のASU第2016-01号による時価会計のさらなる拡大を具体的に示している。バフェットの2017年年次報告書の批判も新たに引用されており、問題の深刻化を認める形で記述が追加されている。
  • 配当から自社株買いへの移行の定着:第6版では戦後の配当性向低下(66.8%→49.0%)が1株当たり利益成長を加速させたという論理を、自社株買いの拡大という現象に接続して整理している。ただし「配当性向がこの水準で安定していれば将来の配当期待成長率は高くなる」という理論的な帰結も明記しており、単純な肯定ではない。

【峻別】経済的必然 vs 時代的偶然

経済的必然(2050年でも再現可能性が相対的に高いもの)

  • DCFモデルの論理:株価が将来キャッシュフローの割引現在価値であるという数学的構造は、資本主義が続く限り変わらない。2050年でも「企業が生む現金がすべて」という原則は有効だ。
  • 配当政策中立性の論理:内部留保が資本コストと同率で運用される限り、配当性向は株価に影響しないという理論は数学的帰結であり普遍的だ。
  • 自社株買いは設備投資の代替ではないという事実:著者が示すように、企業の設備投資水準は資本コストとの比較で決まるものであり、自社株買いの制限で増えるものではない。この論理は2050年でも成立する。

時代的偶然(特定の条件が重なった可能性があるもの)

  • 自社株買い拡大を支えた税制と低金利:著者も認めているとおり、自社株買いが現金配当より有利な主な理由は税制(キャピタルゲイン課税の繰り延べ)だ。また過去20年の超低金利が企業の借入による自社株買いを可能にしてきた。税制変更や高金利の定着によってこの構造は変質する可能性がある。
  • non-GAAPの「自由な解釈」が通用してきた時代:企業がnon-GAAPで不都合なコストを除外した利益を報告することが許容されてきた。2050年に向けて無形資産・データ・環境負債などの評価がより複雑化する中で、この「調整」の恣意性への批判が強まるリスクがある。

【批判】2050年への死角

  • 著者は「GAAP利益を無視せよ」とは言っていないが、その論旨が誤読されやすい:著者の主張は「FASBのルール変更が下方バイアスをもたらしており投資家はこの事実を考慮すべき」というものだ。「GAAP利益は無視してよい」という結論ではない。しかしnon-GAAP利益を使う際の基準(何を除外するかの恣意性)については著者の批判が弱く、経営陣が都合よく利益を操作するリスクへの対処が明確でない。
  • 「7.1%の実質リターン」の前提条件が変わるリスク:表7-1が示すこの数値は1871〜2021年の米国市場のデータだ。この期間には生存者バイアス(消滅した市場は含まれない)が含まれている。2050年に向けて米国のGDPシェアが低下し多極化が進む中で、この数値が物理定数のように維持されると想定することには慎重であるべきだ。
  • ウィスパー予想と「決算ゲーム」の構造的問題:著者は「過去10年で65〜75%の企業がコンセンサス予想を上回る」という事実を示しているが、これは企業が意図的に保守的な予想を出してサプライズを演出しているという構造的な問題を示唆している。この「ゲーム」が短期投資家の行動を歪め、長期的な企業価値の評価を妨げるリスクについて、著者の批判は限定的だ。

【評価】第7章の評価軸

評価論点判断の根拠
【信】Core TheoryDCFモデルの論理(株価=将来キャッシュフローの割引現在価値)および配当政策中立性の数学的帰結資本主義の数学的構造から導かれる普遍的な原理。内部留保が資本コストと同率で運用される限り2050年でも有効だ。
【疑】Variable自社株買いによるEPS成長が株主リターンの柱として継続するという前提著者自身が「税制が主な動機」と認めており、税制変更・高金利の定着によって容易に変質する。条件依存の現象だ。
【棄】Bias「7.1%の実質リターン」を将来も続く定数として扱う姿勢1871〜2021年の米国というサンプル1つからの推定であり、生存者バイアスを含む。多極化する世界でこの数値が維持されるという前提は根拠が弱い。

まとめ

本に記述された事実と変遷

第7章の核心は「株価の正体はDCFであり、価値の源泉は配当だ」という原則と、「利益の報告方法によって見える数字が大きく異なる」という実務的な問題の2本柱だ。

数値の確認として、1871〜2021年の実質リターン7.1%(配当利回り約4.3%+実質キャピタルゲイン2.59%)。EPS成長率2.05%、配当性向57.2%。戦前(1871〜1945年)は配当性向66.8%・配当利回り5.31%・EPS成長率0.67%。戦後(1946〜2021年)は配当性向49.0%・配当利回り3.28%・EPS成長率3.43%。2008〜2009年のGAAP利益減少率は大恐慌期の減少率63%をはるかに上回った。四半期決算でコンセンサスを上回る企業は過去10年で約65%、最近では70〜75%に上る。

将来への持論と方針

DCFモデルの論理は信じてよい。「企業が生む現金がすべて」という原則は2050年でも変わらない。この観点から高配当株をポートフォリオの軸に据えることは引き続き合理的だと考えている。

一方で「7.1%の実質リターンが続く」という前提は条件付きとして扱うべきだ。著者が示す数値は1871〜2021年の米国という1つのサンプルに基づく。保守的に見積もり、高バリュエーションの時期の買い増しを抑制する判断基準として使う方が現実的だ。

また利益の「質」を自分の目で確認することが重要だ。企業が発表するnon-GAAP利益は何を除外しているかの恣意性がある。フリーキャッシュフローが実際に積み上がっているかを確認する習慣が、長期的な銘柄選定の精度を高める。

最終的な結論は全章を読み終えてから出したい。

それでは。

※本記事は刊行時の記述と、著者自身による修正履歴の確認に基づいています。将来の投資環境についての記述は個人の見解であり、予測を保証するものではありません。

【免責事項】本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資は元本割れのリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。

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