新しく何かを始めたとき、思うように進まず「こんなはずではなかった」と頭を抱えることはありませんか?
易経の三番目にあたる**「水雷屯(すいらいちゅん)」は、生命が誕生する直前の、最もエネルギーが必要で、かつ困難な時期を象徴しています。「屯(ちゅん)」という字は、種が芽を出そうとして、まだ地中に留まっている姿。この記事では、「十翼(じゅうよく)」**の智慧を借りて、この混沌期を成功への助走期間に変える方法を紐解きます。
今は苦しくても、それは大きな飛躍のために必要なプロセスなのです。
水雷屯の基本:険難の中に芽生える希望
易経の経文(本文)では、水雷屯について次のように述べられています。
屯、元亨利貞。勿用有攸往。利建侯。
(屯は、大いに亨る。貞しきに利ろし。往(ゆ)くところ有るに用うるなかれ。侯(きみ)を建てるに利ろし)
この卦は「四大難卦(しだいなんけ)」の一つとされますが、決して絶望の卦ではありません。「大いに亨(とお)る」とあり、未来には成功が約束されています。ただし、「むやみに突き進むな(勿用有攸往)」という条件がつきます。
ここで、十翼の**『彖伝(たんでん)』**を紐解いてみましょう。
『彖伝』は「剛柔始めて交わりて難生ず」と説きます。天と地のエネルギーが初めて混ざり合うとき、そこには摩擦や抵抗が生まれるのは自然の摂理だ、と教えています。
さらに、この時期に最も重要なアクションとして「利建侯(侯を建てるに利ろし)」、つまり**「自分を助けてくれる協力者や、信頼できるリーダーを立てること」**を強く推奨しています。
混沌から秩序へ:6段階の成長ステップ
水雷屯における「困難の乗り越え方」を爻辞(こうじ)と、十翼の**『象伝(しょうでん)』**の視点から見ていきましょう。
| 段階 | 易経の言葉(爻辞) | 十翼(象伝)による指針 | 現代的解釈 |
| 第一 | 盤桓(ばんかん)す。貞に居るに利ろし | 「貴をもって下に下るなり」:志は高く持ちつつ、現場に寄り添う。 | 足場固め: 焦らず現状維持。協力者を探す。 |
| 第二 | 屯如(ちゅんじょ)たり邅如(てんじょ)たり | 「難に乗りて進まず」:無理に進もうとせず、時を待つ。 | 忍耐: 障害が多い。今は誘惑に乗らず「待機」。 |
| 第三 | 鹿を逐(お)うて虞(ぐ)なし | 「獲(え)ものを逐うて、迷うなり」:ガイドなしで深入りすれば迷う。 | 無謀の戒め: 知識不足で進むと大損害を出す。 |
| 第四 | 馬に乗りて班如たり。婚を求めて往けば吉 | 「求めて往く。明なり」:自ら助けを求めれば道が開ける。 | 協力要請: 謙虚に専門家の力を借りるべき時。 |
| 第五 | その膏(こう)を屯(とど)む | 「施し未だ光(あき)らかならざるなり」:まだ実力が周知されていない。 | 小成: 少しずつ成果が出るが、独占は厳禁。 |
| 第六 | 馬に乗りて班如たり。泣血(きゅうけつ)漣如たり | 「何をか久しくすべけん」:いつまでも立ち往生はできない。 | 限界: 助けを拒むと、行き詰まって涙を流す。 |
十翼が説く「経綸(けいりん)」の智慧
水雷屯の教えで最も心強い言葉が、十翼の**『象伝(しょうでん)』**にあります。
雲雷は屯なり。君子もって経綸(けいりん)す。
「経綸」とは、もともと「糸を整理して布を織る」という意味です。混沌とした(屯)状況だからこそ、焦って力任せに動くのではなく、**「こんがらがった糸を一本ずつ丁寧に解きほぐし、計画を立てる(経綸する)」**ことが必要だと説いています。
バラバラな要素を一つにまとめ、秩序を作る。これが、屯の時期を抜けるための唯一の正攻法です。
水雷屯の教えを今すぐ活かすべき人
- 新規事業を立ち上げたばかりで、課題が山積みの方
- 部署異動や転職直後で、周囲との関係に苦労している方
- 長い準備期間を経て、いよいよ本番を迎えようとしている方
水雷屯は、今の苦労が「無駄」ではなく「価値ある産みの苦しみ」であることを教えてくれます。
もしあなたが今、立ち往生しているなら、それは**「盤桓(ばんかん)」**して土台を固めるべき時かもしれません。自力で何とかしようとせず、良きアドバイザー(侯)を見つけることが、暗い地中から地上へと芽を出す近道となります。
十翼の**『彖伝』**はこう締めくくっています。
「宜しく建侯して、寧(やす)んずべからず」
協力者を得て体制を整えたら、安心しきって手を緩めず、常に状況を整理し続けなさい。その地道な「経綸」の先にこそ、大輪の花を咲かせる未来が待っています。
次回の予告:
次は、未熟な若者が成長するための学びの過程を象徴する**「山水蒙(さんすいもう)」**について解説します。「教育」と「謙虚さ」の真髄を学びましょう。
それでは。


