「この人と一緒にいたい」「このチームで頑張りたい」。そう思われるリーダーや仲間になるには、何が必要でしょうか。
易経の八番目にあたる**「水地比(すいちひ)」は、大地の上に水があり、両者がぴったりと密着して離れない様子から「親密」「和合」を象徴しています。力で従わせる「師」の時期を過ぎ、次は心で結ばれる段階です。この記事では、卦辞の漢字を漢和辞典の語義序列から深掘りし、「十翼(じゅうよく)」**が教える「本物の信頼関係」の築き方を解説します。
徹底解読:卦辞「比、吉。原筮、元永貞、无咎。不寧方来。後夫凶」
漢和辞典の語義序列を確認し、易経の文脈において最も「通る」意味を根拠とともに導き出します。
- 【比】(ヒ・くらべる・ならぶ・したしむ)
- くらべる: 二つのものを並べて良し悪しを考える。
- ならぶ: 横に並ぶ。
- したしむ: 仲良くする、馴染む、結びつく。
- 根拠: 1の「比較」も重要ですが、水が大地に隙間なく染み込む卦の形から、ここでは**3の「したしむ(親和・和合)」**を採択します。個々が並ぶだけでなく、心が通い合う状態を指すからです。
- 【原】(ゲン・もと・たずねる)
- もと: 始まり、みなもと。
- たずねる: 突き止める、再確認する。
- 根拠: ここでは**2の「たずねる(推し量る)」**をとります。後に続く「筮(占う)」と合わせ、自分の本心を「もう一度深く問い直す」という反省の動作が必要だからです。
- 【元】(ゲン・もと・おおいに)
- こうべ: 頭(かしら)。
- はじめ: 物事の開始。
- おおいに: 根本的に優れたさま。
- 根拠: 1の「かしら」という意味を含みつつ、**3の「おおいに(根本的な徳)」**を採択します。リーダーとして「根本的な人間力」が問われる場面であるためです。
- 【永】(エイ・ながい)
- ながい: 時間や距離が長く続く。
- ながくする: 永続させる。
- 根拠: 一時的な仲良しではなく、**1の「永続性」**を重視します。信頼関係の本質は変わらないことにあります。
- 【不】(フ・ず)
- 打ち消しの助字。
- 【寧】(ネイ・やすらか)
- やすらか: 心が落ち着いている。
- ねがい: むしろ〜したい。
- 根拠: **1の「やすらか」**を採択。「不寧(やすらかならず)」で、不安や動揺を抱えている状態を示します。
【総合解釈】
人と親しむ(比)のは吉である。しかし、親しむ前には自分の本心を再確認し(原筮)、そこに根本的な徳と永続的な誠実さ(元永貞)があるかを問わねばならない。そうすれば過ちはない。不安を抱える者たちも、その徳を慕って集まってくる(不寧方来)。ただし、決断が遅れ、最後に来る者は好機を逃して凶となる。
十翼が説く「選ばれるリーダー」の条件
十翼の**『彖伝(たんでん)』**は、この卦を「比は輔(たす)くるなり。下、順従するなり」と評します。上の者が下の者を助け、下の者が上の者に喜んで従う。この理想的な上下関係を「比」と呼びます。
また、**『象伝(しょうでん)』では「地上に水があるのが比の形。古の王はこの姿を見て、諸々の国を建て、諸侯を親しませた」とあります。これは、自分一人で支配するのではなく、「相手の居場所(国)を作り、尊重することで自発的な協力を引き出す」**という高度な統治哲学を説いています。
絆を深める6段階:タイミングと真心の法則
水地比における和合のプロセスを、爻辞(こうじ)と十翼の**『象伝』**から見ていきましょう。
| 段階 | 易経の言葉(爻辞) | 十翼(象伝)による指針 | 現代的解釈 |
| 第一 | 孚(まこと)ありてこれに比す | 「他より吉を来たすなり」:真心があれば思わぬ幸運が来る。 | 誠実な交流: 利害ではなく真心で人と接する。 |
| 第二 | 内よりこれに比す | 「自ら失わざるなり」:自分の本分を守って親しむ。 | 自己確立: 媚びることなく、自分を保って和合する。 |
| 第三 | 比すべき非人に比す | 「また傷(いた)ましからずや」:親しむべきでない人と親しむ。 | 失敗: 悪友や不適切なパートナーに近づき後悔する。 |
| 第四 | 外よりこれに比す | 「賢に従うなり」:外部の賢者に自ら歩み寄る。 | 外部協力: 尊敬できるリーダーをサポートする。 |
| 第五 | 顕(あき)らかに比す。失前禽(しつぜんきん) | 「舎(お)きて逆(むか)うるを逆(むか)え、去(さ)るを追わず」:去る者は追わず、来る者は拒まず。 | 王道の和合: 寛容さを持ち、無理強いしない交流。 |
| 第六 | 比するに首(こうべ)なし | 「終(おわり)を成すところなきなり」:最初を間違えたので終わりも悪い。 | 手遅れ: 疑り深く合流を遅らせ、孤立する。 |
十翼が説く「去る者は追わず」の極意
水地比の五爻(ごこう)に関する十翼の解説には、対人関係の極意が記されています。
前(さき)の禽(えもの)を失う。去るを追わず、逆(むか)うるを逆う。
狩りをする際、自分に向かってくる獲物は取るが、背を向けて逃げる獲物は深追いしない。これを「三駆(さんく)」の礼と言います。
リーダーが和合を求める際、**「来る者は喜んで迎えるが、去る者を無理に引き止めない」**という潔い態度を持つことで、かえって周囲からの信頼と敬意(顕比)が集まるのだと教えています。
水地比の教えを今すぐ活かすべき人
- 新しいコミュニティに入ろうとしている、あるいは作ろうとしている方
- チームメンバーとの心の距離を縮めたいリーダー
- 交渉事やパートナーシップにおいて、主導権と好感度を両立させたい方
水地比は、和合の鍵は「コントロール」ではなく「真心とタイミング」にあることを教えてくれます。
もしあなたが今、誰かとの関係に悩んでいるなら、それは**「比すべき非人に比す」状態、つまり相手選びを間違えているのかもしれません。あるいは、「後夫(こうふ)」のように慎重になりすぎて、信頼を築く絶好のチャンスを逃している可能性もあります。 大切なのは、まず自分の中に「元永貞(変わらぬ誠実さ)」**があるかを問い直すこと。あなたが揺るぎない大地になれば、水(人々)は自然とあなたのもとへ流れ込み、一つに溶け合うはずです。
十翼の**『彖伝』**はこう警告します。
「後(おく)るる夫(おのこ)は凶とは、その道窮(きわ)まればなり」
和合の輪に入るべき時に、疑念を持って遅れる者は、最後には行き場を失います。信じると決めたら、清々しくその輪に加わる。その決断力が、あなたを孤独から救い出すのです。
次回の予告:
次は、小さな蓄積と一時的な足止めを象徴する**「小畜(しょうちく)」**について解説します。大きなことを成し遂げる前の「力を蓄える時期」の過ごし方を学びましょう。
それでは。


