人間関係が円滑で、仕事もプライベートも順調。そんな「すべてが噛み合っている」最高の時期をどう守ればよいのでしょうか。
易経の十一番目にあたる**「地天泰(ちてんたい)」は、平和と繁栄の絶頂を象徴する卦です。重い「地」が上にあり、軽い「天」が下にあるこの形は、一見不自然に見えますが、実は「上の者が歩み寄り、下の者が向上する」というエネルギーの交わりを表しています。この記事では、卦辞の漢字を漢和辞典の語義序列から深掘りし、「十翼(じゅうよく)」**が教える「安泰を永続させる極意」を解説します。
徹底解読:卦辞「泰、小往大来。吉亨」
漢和辞典の語義序列を精査し、「泰」という字に込められた豊かさと広がりの意味を読み解きます。
- 【泰】(タイ・やすい・ゆたか・はなはだ)
- ゆたか: 落ち着いていて、ゆとりがある。
- やすい: 安らか、平穏である。
- はなはだ: 程度がすぎる、はなはだしい。
- 根拠: ここでは1と2を合わせた意味を採択します。単なる平和(安)だけでなく、エネルギーが溢れ、ゆとりを持って循環している状態を指すからです。
- 【小】(ショウ・ちいさい)
- ちいさい: 形や規模が小さい。
- いやしい: 徳のない人(小人)。
- 根拠: ここでは**2の「徳のないもの・不穏な要素」**を採択します。
- 【往】(オウ・ゆく・さる)
- ゆく: 目的地へ向かう。
- さる: 立ち去る、過去になる。
- 根拠: **2の「立ち去る」**を採択。不要なものが除かれるニュアンスです。
- 【大】(ダイ・おおきい)
- おおきい: 形や規模が大きい。
- すぐれる: 徳の高い人(君子)、重要なこと。
- 根拠: **2の「徳の高いもの・良き力」**を採択。
- 【来】(ライ・くる)
- くる: こちらへ近づく、出現する。
- 根拠: **1の「出現する」**を採択。
- 【吉】(キチ・よい)
- 【亨】(コウ・とおる)
【総合解釈】
泰の時は、不穏なものや小さな悩みは去り(小往)、優れた力や大きな幸運がやってくる(大来)。すべてが調和し、物事は大いにスムーズに進む(吉亨)。
十翼が説く「天地交わる」の道理
十翼の**『彖伝(たんでん)』**は、この卦を「天地交わりて万物通ずるなり」と解説します。
本来、天(上)は上へ、地(下)は下へと離れていくものですが、この卦では地が降り、天が昇ることで「交差」が生まれます。これが組織であれば「リーダーが現場の意見を聞き、メンバーがリーダーの志を支える」という理想的なコミュニケーションの状態を指します。
また、**『序卦伝(じょけでん)』**では「履(礼)んで安んず。ゆえにこれを受くるに泰をもってす」とあります。正しい礼節(履)を守り続けた結果として、この安泰(泰)が訪れるという因果関係を説いています。
繁栄を維持する6段階:変化への警戒
地天泰における「泰平の世の過ごし方」を、爻辞(こうじ)と十翼の**『象伝(しょうでん)』**から見ていきましょう。
| 段階 | 易経の言葉(爻辞) | 十翼(象伝)による指針 | 現代的解釈 |
| 第一 | 茅(ちがや)を抜く。彙(たぐい)をもってす | 「志、外にあるなり」:根っこで繋がった仲間と共に進む。 | 結束: 志を同じくする仲間と団結して行動を開始する。 |
| 第二 | 荒(こう)を包(い)る。河を馮(わた)る | 「光大(こうだい)なるなり」:荒々しさも包み込む度量。 | 包容力: 困難や反対勢力さえも受け入れ、中道を歩む。 |
| 第三 | 平らなれば険なからざるはなく、往けば復(かえ)らざるはなし | 「天地の際(きわ)なり」:平地の次には必ず険しい道が来る。 | 転換点: 絶頂の次は衰退が来ることを自覚し、気を引き締める。 |
| 第四 | 翩翩(へんぺん)として富まず | 「皆、実を失うなり」:ひらひらと軽やかに協力する。 | 無私: 私欲を捨て、周囲の人々と手を取り合う。 |
| 第五 | 帝乙(ていいつ)、女(むすめ)を帰(とつ)がす | 「中をもって願いを行うなり」:王が謙虚に身を低くする。 | 謙遜: 上の者が下の者に歩み寄ることで、最高の幸福を得る。 |
| 第六 | 城、復(かえ)りて隍(ほり)にす。師(いくさ)を用いるなかれ | 「その命、乱るるなり」:城壁が崩れて堀に埋まる。 | 崩壊: 安泰が終わり、秩序が乱れる。抗わず守りに徹する。 |
十翼が説く「天地の道を補い助ける」教え
地天泰の**『象伝(しょうでん)』**には、繁栄を永続させるためのリーダーの責任が記されています。
天地交わるは、泰なり。后(きみ)もって天地の道を財(さい)成し、天地の宜(よろしき)を輔(ほ)相(そう)す。
天地が交わり調和しているのが泰の形です。
君主(リーダー)はこれを見て、「天地の道を財(さい)成し、天地の宜(よろしき)を輔(ほ)相(そう)す」、つまり「自然の摂理がうまく機能するように調整し(財成)、人々がその恩恵を十分に受けられるように助ける(輔相)」べきだと説いています。
良い時は「何もしない」のではなく、「良い状態が続くように環境をメンテナンスする」。これが泰の時期の正しい仕事です。
地天泰の教えを今すぐ活かすべき人
- 現在、チームや家庭の状態が非常に良く、これを維持したい方
- 順風満帆な時こそ、次に備えて何をすべきか知りたいリーダー
- 「最近うまくいきすぎている」と逆に不安を感じている方
地天泰は、繁栄とは「静止」ではなく、エネルギーの「循環」であることを教えてくれます。
もしあなたが今、最高の状態にあるなら、それは**「帝乙、女を帰がす」**のように、あなた自身が謙虚に周囲へ歩み寄るべき時かもしれません。また、三爻の「平らなれば険なからざるはなく」という言葉を胸に、好調な時こそ慢心を捨てて、足元を固めること。その「備え」がある限り、たとえ時代が変化しても、あなたの安泰は形を変えて続いていくはずです。
十翼の**『彖伝』**はこう教えます。
「内、君子にして外、小人。君子の道長く、小人の道消えるなり」
内面を徳(君子)で満たし、不純なもの(小人)を外へ追いやる。この健全な新陳代謝こそが、真の「泰(やすらぎ)」を支える土台となるのです。
次回の予告:
次は、地天泰とは真逆の、上下が遮断され停滞する**「天地否(てんちぴ)」**について解説します。最悪の閉塞感をどう生き抜くべきか、その「冬の時代の処世術」を学びましょう。
それでは。


