易経「天地否」の意味|10翼に学ぶ「閉塞期」の耐え方と再起の条件

易経

「何を言っても通じない」「組織がバラバラで動かない」。そんな絶望的な閉塞感の中にいませんか?

易経の十二番目にあたる**「天地否(てんちぴ)」は、前卦の「泰(安泰)」とは真逆の状態を象徴しています。天は上に、地は下へと離れ去り、その間に交流が全く生まれない「断絶」の卦です。この記事では、卦辞の漢字を漢和辞典の語義序列から深掘りし、「十翼(じゅうよく)」**が教える「冬の時代を生き抜き、春を呼び込む極意」を解説します。

徹底解読:卦辞「否之匪人。不利君子貞。大往小来」

漢和辞典の語義序列を精査し、「否」という字に込められた拒絶と停滞の意味を読み解きます。

  • 【否】(ヒ・ピ・いな・あらず・ふさがる)
    1. いな: 否定する、承知しない。
    2. あらず: 〜ではない。
    3. ふさがる: 悪くなって通じない、ゆきづまる。
    • 根拠: ここでは**3の「ふさがる(閉塞)」**を採択します。天と地のエネルギーが背を向け合い、世界が凍りついたように動かなくなった状態を指すからです。
  • 【匪】(ヒ・あらず)
    1. はこ: 竹で編んだ器。
    2. あらず: 〜ではない(非と同じ)。
    • 根拠: 文脈から**2の「〜ではない」**を採択。「匪人(ひとにあらず)」で、人間らしい道理が通らない異常な状態を指します。
  • 【利】(リ・よろしい)
    1. するどい: 刃物がよく切れる。
    2. よろしい: 利益がある、好都合だ。
    • 根拠: **2の「よろしい」**を採択。否定の「不」を伴い、今は正しさを貫いても報われないことを示します。
  • 【大】(ダイ・おおきい)
    • 根拠: 前卦同様、**「徳の高いもの・君子」**を指します。
  • 【往】(オウ・ゆく・さる)
    • 根拠: **「立ち去る」**を採択。
  • 【小】(ショウ・ちいさい)
    • 根拠: **「徳のないもの・小人」**を指します。
  • 【来】(ライ・くる)
    • 根拠: **「やってくる」**を採択。

【総合解釈】

否の時は閉塞し、人間らしい道理が通らない(匪人)。徳を貫こうとする君子にとって不利な状況である(不利君子貞)。優れた者は去り(大往)、器の小さい者や不穏な動きがはびこる(小来)時代である。

十翼が説く「天地交わらず」の悲劇

十翼の**『彖伝(たんでん)』**は、この卦を「天地交わらざれば、万物通ぜざるなり」と断言します。

上下が互いに自分の主義主張だけを抱えて背を向け合うとき、新しい命(成果)は生まれません。組織であれば、経営陣と現場が完全に分離し、疑心暗鬼に陥っている状態です。

また、**『序卦伝(じょけでん)』**では「物、もって終わりに泰(やす)んずべからず。ゆえにこれを受くるに否をもってす」とあります。泰平の世が永遠に続くと思い込み、努力や調整を怠った結果として、必ずこの閉塞が訪れるという自然のサイクルを戒めています。

冬を生き抜く6段階:どん底からの転換

天地否における「停滞期のサバイバル」を、爻辞(こうじ)と十翼の**『象伝(しょうでん)』**から見ていきましょう。

段階易経の言葉(爻辞)十翼(象伝)による指針現代的解釈
第一茅(ちがや)を抜く。貞なれば吉「志、君に在るなり」:仲間と連帯して正しさを守る。隠忍: 悪に染まらず、信頼できる仲間とだけ繋がっておく。
第二包承(ほうしょう)す。小人は吉「大人、否なれば亨(とお)る」:小人に取り入れば一時的には得。誘惑: 目先の利益に走らず、君子はあえて不遇を選ぶ。
第三羞(はじ)を包(い)る「位、当たらざればなり」:恥ずべきことを内に隠している。混迷: 自分の信念を曲げたことへの羞恥心。耐え忍ぶ時。
第四命あり。咎なし。疇(とも)もって祉(さいわい)を離(う)く「志行なわれるなり」:天命が下り、仲間と幸運を得る。転機: 閉塞に風穴が開く。正しい志がようやく認められ始める。
第五否を休(や)む。大人吉。其れ亡びん其れ亡びんとす「位、正当なればなり」:閉塞を終わらせる。常に危機感を持つ。再興: 混乱を収拾するリーダーの登場。油断せず慎重に進む。
第六否を傾(かたむ)く。先には否、後には喜ぶ「何をか久しくすべけん」:閉塞がひっくり返る。打破: 停滞は終わり、一気に事態が好転する。

十翼が説く「徳を包み隠して難を避ける」教え

天地否の**『象伝(しょうでん)』**には、暗黒時代における賢者の最も賢い振る舞いが記されています。

天地交わらざるは、否なり。君子もって徳を倹(けん)にし難を避け、栄をもって禄(ろく)とすべからず。

天地が離れ離れなのが否の形です。

君子(賢明な者)はこれを見て、「徳を倹(けん)にし難を避け」、つまり「自分の才能や実績をあえてひけらかさず、質素に振る舞って災難を避ける」べきだと説いています。さらに、「栄をもって禄とすべからず」、不当な利益や地位を求めて小人に取り入ることを厳しく戒めています。

今は「活躍」する時ではなく、**「生き残る(サバイバル)」**時。エネルギーを内側に凝縮させ、春を待つ根雪のような強さが求められます。

天地否の教えを今すぐ活かすべき人

  • 職場の人間関係や組織のあり方に、強い限界を感じている方
  • 正論を言っても通じず、むしろ攻撃されて疲弊している方
  • 「今は何をしても裏目に出る」という不運の渦中にいる方

天地否は、停滞とは「停止」ではなく、次の爆発的な好転(否を傾く)に向けた「溜め」の期間であることを教えてくれます。

もしあなたが今、最悪の状況にいるなら、それは**「徳を倹にする」**べきサインです。無理に状況を変えようとせず、自身の内面を磨き、牙を研ぐことに専念してください。五爻にある「其れ亡びん其れ亡びん(滅びる、滅びる)」という強い危機感を持つことこそが、逆にあなたを安泰へと導く鍵となります。

十翼の**『彖伝』**はこう教えます。

「内、小人にして外、君子。小人の道長く、君子の道消えるなり」

外側の世界が小人で溢れているなら、無理に出る必要はありません。あなたの内側にある「君子の灯火」を絶やさないこと。閉塞は必ず「傾き」、終わりを迎えます。その時、最高に輝ける準備を今、この静寂の中で進めましょう。


次回の予告:

次は、閉塞を打ち破り、志を同じくする人々が広く集う**「天火同人(てんかどうじん)」**について解説します。孤独な冬を越え、いかにして「真の同志」と出会うべきか、その秘訣を学びましょう。

それでは。

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