「もっと高く、もっと遠くへ」。今の場所から一歩踏み出し、自己を更新し続けたいと願うあなたへ。
易経の四十六番目にあたる**「地風升(ちふうしょう)」は、着実な上昇と発展を象徴する卦です。地(坤)の下に風(巽:木の象徴)がある。これは、大地から栄養を吸い上げた木が、目には見えない速さで、しかし確実に天へと枝を伸ばしていく姿を表しています。この記事では、卦辞の漢字を漢和辞典の語義序列から深掘りし、「十翼(じゅうよく)」**が教える「抜擢され、昇り続けるための秘訣」について解説します。
徹底解読:卦辞「升、元亨。用見大人。勿恤。南征吉」
漢和辞典の語義序列を精査し、「升」という字に込められた「計測」と「上昇」を読み解きます。
- 【升】(ショウ・のぼる・ます)
- のぼる: 下から上へあがる、進む。
- はかる: 枡(ます)で量を量る。
- みのる: 穀物が実る、豊作。
- 根拠: 字源的には「柄杓(ひしゃく)」の形です。一合、一升と少しずつ積み重ねて量る様子から、**「飛躍的なジャンプではなく、段階を踏んで着実に上昇する」**という意味を採択します。
- 【用見大人】(もってたいじんを見る)
- 根拠: 上昇するには自分一人の力だけでなく、実力者(大人)に見出され、引き立ててもらうことが不可欠です。
- 【南征吉】(なんせいすればきち)
- 根拠: 南は明るく、温かい「離(火)」の方向。希望を持って、明るい場所(表舞台)へ進むことが幸運を呼びます。
【総合解釈】
升(しょう)の時は、運気が上昇し、物事が大きく通る(元亨)。不安を感じる必要はない(勿恤)。積極的に実力者の門を叩き、アドバイスを仰ぐべきである。明るい目的を持って前進(南征)すれば、必ず素晴らしい成果が得られる。
十翼が説く「順(じゅん)を以て昇る」道理
十翼の**『彖伝(たんでん)』は、この上昇のプロセスが非常にスムーズであることを強調します。 「柔、時を以て昇る。巽(そん)にして順。剛、中にして応ず。これをもって大いに亨(とお)るなり」 下の「巽(木)」は柔軟であり、上の「地」は「素直(順)」です。つまり、「抵抗が少なく、環境があなたの成長を受け入れている」状態です。 また、『序卦伝(じょけでん)』**では「聚(あつ)まりて上(のぼ)る者、これを升という。ゆえにこれを受くるに升をもってす」とあります。人や物が集まれば(萃)、そのエネルギーは必然的に上へと向かうという自然な流れを示しています。
上昇の6段階:積み重ねが「高み」を作る
地風升における「ステップアップのプロセス」を、爻辞(こうじ)と十翼の**『象伝(しょうでん)』**から見ていきましょう。
| 段階 | 易経の言葉(爻辞) | 十翼(象伝)による指針 | 現代的解釈 |
| 第一 | 允(まこと)に升(のぼ)る。大吉 | 「志、上(かみ)に合うなり」:信頼を得て昇進する。 | 順調: 周囲からの信頼(允)が厚い。最初の一歩から強力な支持を得る。 |
| 第二 | まことあれば、これ禴(やく)を用いるに利ろし。咎なし | 「志、喜びあるなり」:質素な祭祀でも誠意があれば通じる。 | 誠実: 派手なアピールは不要。内面の誠実さが、目上の心(天)を動かす。 |
| 第三 | 虚(むな)しき邑(むら)に升る | 「疑うところなきなり」:誰もいない村に入るように進む。 | 快進撃: 障害が全くない。自分の信じる道を堂々と突き進んで良い。 |
| 第四 | 王、用いて岐山(きざん)に亨(きょう)す。吉。无咎 | 「順なるを以て事(こと)するなり」:山の神を祀る。 | 栄誉: 最高の地位や名誉に近づく。謙虚に神仏や先祖に感謝を捧げるべき。 |
| 第五 | 貞なれば吉。階(きざはし)に升る | 「大いに志を得るなり」:階段を一段ずつ登る。 | 確実: 焦る必要はない。これまでの実績を信じ、一歩ずつ確実に登り詰めよ。 |
| 第六 | 冥(めい)に升る。利貞を息(や)めざるに利あり | 「消(しょう)して富(と)まざるなり」:暗闇でも昇り続けようとする。 | 自制: 頂点に達してもまだ欲張るのは危険。ただし、正しい努力(貞)は止めない。 |
十翼が説く「小(しょう)を積んで以て高大を成す」教え
地風升の**『象伝(しょうでん)』**には、成功を永続させるための本質的な態度が記されています。
地の中に木あるは、升なり。君子もって順(じゅん)に徳(とく)に由(よ)り、小(しょう)を積んで以て高大を成す。
木が地中からゆっくりと、しかし休むことなく伸びていくのが升の形です。
君子(リーダー)はこれを見て、「順に徳に由り」、つまり「無理な背伸びをせず、道理に従って徳を積み上げ」、さらに**「小を積んで以て高大を成す」**、つまり「日々の小さな努力(小)を疎かにせず継続することで、最終的に誰もが仰ぎ見るような偉大な成果(高大)を成し遂げる」べきだと説いています。
「ちりも積もれば山となる」。この極めてシンプルな真理こそが、上昇運を掴み取るための唯一の「王道」なのです。
地風升の教えを今すぐ活かすべき人
- 現在、昇進や転職など、キャリアのステップアップを目指している方
- 長期的なプロジェクトや学習に取り組んでおり、継続の力が必要な方
- 目上の人や実力者から、引き立てを受けたいと願っている方
地風升は、本当の成長とは「瞬間風速的な成功」ではなく、目に見えないほどの「微差の積み重ね」であることを教えてくれます。
もしあなたが今、成長の実感が持てずに焦っているなら、第五爻の**「階(きざはし)を登る」**姿をイメージしてください。象伝が教えるように、目の前の「小さな徳」を積み続けること。あなたが素直(順)な心で周囲に接し、自分の役割をコツコツと果たし続けたとき、大地(環境)はあなたの根を支え、気づけばあなたは周囲を圧倒する大樹(高大)として、輝かしい南の太陽(成功)に手を伸ばしているはずです。
十翼の**『彖伝』**はこう締めくくっています。
「その志、行なわれるなり」
一歩一歩の積み重ねが、あなたを最高の場所へ運びます。
次回の予告:
次は、上昇の後に訪れる、エネルギーが枯渇し行き詰まる試練の卦**「沢水困(たくすいこん)」**について解説します。どん底の窮地をどう切り抜けるか、「困」を「転機」に変える智慧を学びましょう。


