易経「天雷无妄」の意味|10翼に学ぶ「作為を捨て天命に任せる」極意

易経

「こうすれば得をする」「失敗したらどうしよう」。そんな計算や不安で心が重くなっていませんか?

易経の二十五番目にあたる**「天雷无妄(てんらいむぼう)」は、天(天道)の下に雷(行動)がある姿を象徴しています。これは、自分の意志や欲求で動くのではなく、天の理に導かれるまま、純粋無垢に振る舞うことを意味しています。実は、最も大きな幸運は「狙っていない時」にやってくるのです。この記事では、卦辞の漢字を漢和辞典の語義序列から深掘りし、「十翼(じゅうよく)」**が教える「無欲の勝利」について解説します。

徹底解読:卦辞「无妄、元亨利貞。其匪正有眚、不利有攸往」

漢和辞典の語義序列を精査し、「无妄」という言葉に隠された「嘘のなさ」を読み解きます。

  • 【无】(ム・ない)
    • 根拠: 存在しない。
  • 【妄】(モウ・みだりに・いつわり)
    1. みだりに: でたらめ、無闇に。
    2. いつわり: 真実でない、うそ。
    3. あれる: 心が乱れる。
    • 根拠: ここでは**1と2を合わせた「作為(嘘)がない」**という意味を採択します。自分の都合で現実をねじ曲げたり、見栄を張ったりしない「誠」の状態です。
  • 【元亨利貞】(ゲンコウリテイ)
    • 根拠: 天道のままに動くなら、物事は根本から正しく通じます。
  • 【匪】(ヒ・あらず)
  • 【眚】(セイ・わざわい・めやに)
    1. めやに: 目を覆う膜。
    2. あやまち: 過失、不注意。
    3. わざわい: 自然災害ではなく、自分のミスによる災難。
    • 根拠: 2と3の意味を採択。心が正しくなければ(其匪正)、自分自身で災いを引き起こすという意味です。

【総合解釈】

无妄(むぼう)とは、作為がなく純粋であること。その状態でいれば道は大いに通じる(元亨利貞)。しかし、もし心に邪念や不正があれば、自ら災いを招くことになる(其匪正有眚)。その場合は、何かをしようとしても決してうまくいかない(不利有攸往)。

十翼が説く「天命に順(したが)う」道理

十翼の**『彖伝(たんでん)』**は、この卦を「剛(陽)、外より来たりて内に主となる」と解説します。

天の力強い正しさ(陽)が自分の中心にあり、それが行動(雷)となって現れる。さらに「天の命ずるところ、あに(どうして)妄(いつわり)あらんや。无妄の往(ゆ)く、天の助くるなり」と説いています。作為を捨てて動くとき、その背後には宇宙全体のバックアップ(天助)があるという、深遠な信頼の哲学です。

また、**『序卦伝(じょけでん)』**では「復(かえ)れば則(すなわ)ち妄(いつわり)なし。ゆえにこれを受くるに无妄をもってす」とあります。本来の道に戻った(復)後には、二度と自分を偽らない「無垢」な生き方が始まるという流れを示しています。

「思わぬ幸運」と「思わぬ災難」の6段階

天雷无妄における「作為の有無」がもたらす結果を、爻辞(こうじ)と十翼の**『象伝(しょうでん)』**から見ていきましょう。

段階易経の言葉(爻辞)十翼(象伝)による指針現代的解釈
第一无妄に往く。吉「志、得られるなり」:作為なく進む。純真: 下心がなく、ただ「やりたい」からやる。最高のスタート。
第二耕(たがや)して穫(か)りせず「いまだ富(とみ)せざるなり」:収穫を期待して耕さない。無報酬: 結果(報酬)のために動くのではなく、今のプロセスに没頭する。
第三无妄の災い。牛を繋ぐ。行人の得、邑人の災い「行人は牛を得、邑人は災いにあう」:繋いだ牛を通りがかりの人に盗まれる。不運: 何も悪くないのに災難に遭う。これも天命として受け入れる。
第四貞にすべし。咎なし「固有のものを守るなり」:本来の自分を固守する。不動: 誘惑に負けず、自分の持ち味を変えない。無欲を貫く。
第五无妄の疾。薬を用いるなかれ。喜びあり「薬は試みるべからざるなり」:原因不明の病。薬は不要。自然治癒: 自分のせいではないトラブル。何もしなくても自然に解決する。
第六无妄に往く。眚(わざわい)あり「窮(きわ)まりて災いあるなり」:作為がないが動く。停止: 時期が悪い。純粋な動機でも、今は動かずに止まるべき時。

十翼が説く「万物を養い、時に応ずる」教え

天雷无妄の**『象伝(しょうでん)』**には、天の恵みを社会に活かすリーダーの姿勢が記されています。

天の下に雷行くは、物に与(くみ)する无妄なり。先王もって時に対(こた)え、万物を育(やしな)う。

天の意志が雷鳴となって響き、万物を呼び覚ますのが无妄の形です。

君子(リーダー)はこれを見て、「時に対(こた)え(対時)」、つまり「今という瞬間の流れを正確に読み取り」、「万物を育(やしな)う(育物)」、つまり「自分の名声のためではなく、ただ生命を慈しみ育てる」べきだと説いています。

「対時」とは、自分のスケジュールを押し通すのではなく、宇宙のリズムに自分を合わせることです。

天雷无妄の教えを今すぐ活かすべき人

  • 効率やコスパばかり考えてしまい、心が枯渇していると感じる方
  • 正直に生きているのに、なぜかトラブルに巻き込まれやすい方
  • 「引き寄せ」や「運」を味方につけたいが、どうすればいいか分からない方

天雷无妄は、最高の戦略とは「戦略を捨てること」であり、最強の防御は「誠実であること」だと教えてくれます。

もしあなたが今、結果を求めて焦っているなら、それは第二爻の**「穫りせず」**、つまり「収穫のことは一旦忘れ、今この瞬間の作業を楽しむ」べき時です。また、三爻や五爻のように「身に覚えのないトラブル」に遭ったとしても、ジタバタせず天に任せてみてください。あなたの心が「无妄(嘘のない)」であれば、災いは去り、想像もしなかった形での「喜び」が舞い込んでくるはずです。

十翼の**『彖伝』**はこう締めくくっています。

「无妄の往く、いずれのところにか往かん」

嘘のない心で進む者に、行き止まりなど存在しないのです。


次回の予告:

次は、蓄えられたエネルギーを大きく育て、賢者を養う**「山天大畜(さんてんたいちく)」**について解説します。無欲の後に訪れる「大いなる蓄積」の智慧を学びましょう。

それでは。

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