【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資商品・投資行動を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴い、元本割れの可能性があります。投資判断はご自身の責任において行ってください。
ジェレミー・シーゲル著『株式投資(Stocks for the Long Run)』第6版 第6章のテーマは「S&P500」だ。創設時の構成銘柄が65年後にどうなったか、時価総額トップ企業(トップドッグ)がその後どんなリターンを残したか。データが示す事実は、直感と大きく異なる。本稿では原文に忠実に整理したうえで、これまでの評価軸に沿って検証する。
【抽出】第6版 第6章の核心的ロジック
A. S&P500創設時銘柄のその後:最大の勝者はタバコ会社だった
1957年3月のS&P500創設時からの構成銘柄のうち、2021年末までの約65年間でリターン首位となったのはフィリップモリス(現アルトリア・グループ)で、年率18.02%だった。これに対しS&P500全体の同期間のリターンは年率10.78%であり、フィリップモリスのリターンはほぼ2倍に相当する。著者は1957年3月1日にフィリップモリス株へ投資した1000ドルが2021年末に4500万ドル以上になり、同期間のS&P500への投資で得られた75万ドルの約600倍になると示している。
リターン上位企業の多くは、社名・ブランド・業種を長年にわたり維持していた点が特徴的だ。例外として、マグロウヒル・パブリッシングはS&Pグローバルに転換し書籍事業をスピンオフした。また最も意外な高業績企業は、1892年創業のメルビル・シュー・コーポレーション(現CVSヘルス、ティッカー:CVS、年率13.27%)だ。著者はシューズメーカーが過去100年で最悪の投資先の1つと指摘しつつ、メルビル・シューが1969年にコンシューマー・バリュー・ストアーズというパーソナル・ヘルスケア専門の小規模小売店を買収したことがその後の高業績の起点となり、1996年に社名をCVSに変更したという経緯を紹介している。
フィリップモリスの高リターンの背景として、著者はもう一つの要因を挙げている。同社はのちに、最初のS&P500構成銘柄のうちゼネラルフーズ、デルモンテ、スタンダード・ブランズ、ナショナル・デイリー、ナビスコなど他社10社を傘下に収め、それらの株主がフィリップモリスの株式と交換されることになったため、元株主たちも多大な利益を得たという点だ。
B. トップドッグの系譜:1926年以降に時価総額首位となった11社
1926年以降にCRSPが個別株の記録を取り始めて以降、時価総額トップ(著者が「トップドッグ」と呼ぶ)の地位を獲得したのは11社だ。首位への到達頻度が最も多いのはAT&Tの456カ月で、そのうち251カ月は連続首位だった。在位期間は1926年12月から1994年10月に及ぶ。次にIBMが236カ月、ゼネラル・エレクトリックが117カ月、スタンダード石油ニュージャージー(エクソンモービル)が116カ月と続く。アップルは2011年9月に首位に立ち2021年末時点でも上位を維持しており、頻度は103カ月だ。
1カ月だけ首位に立ったのはデュポン(1955年6月)、フィリップモリス(1992年3月)、ウォルマート(1992年11月)、そして2019年1月に1カ月だけアップルを上回ったアマゾン・ドット・コムの4社だ。
C. トップドッグになった後のリターン:「呪い」は存在するか
著者は、時価総額首位に到達した後のリターンについて明確な結論を示している。平均でみると(1カ月しか首位に立ったことがない4社を含めても除いても)、トップドッグになった後の1年・10年・20年の平均リターンはS&P500を上回っている。30年以上の期間では、これらのトップドッグの平均リターンはS&P500を忠実になぞっている。著者はこれを「スポーツ・イラストレイテッドの表紙を飾ることと同じ呪いがかかるわけではない」と表現し、トップドッグになること自体は凶兆ではないと述べている。
ただし平均値は個々のバラつきを隠している。著者は以下のように個社の明暗を整理している。
- AT&TとGM:1920年代から1950年代半ばまで交互に首位を占め、首位になった後20年間は市場をアウトパフォームし続けた。GMはさらにその後30年間もアウトパフォームしたが、やがて衰退し最終的に倒産した(表6-5のGMの2021年末までのリターンはデータなし)。
- エクソンモービル:他の多くのトップドッグとは異なり、首位到達後もほぼ一貫して市場をアウトパフォームし続けた。数年のアンダーパフォーム後に1980年代に急騰し、長期リターンはS&P500とほぼ同等になった。
- IBM:首位となった1967年7月の翌1年間は市場を大きく上回ったが、その後は失速しS&P500を大幅にアンダーパフォームしている。要注意の対象として著者は言及している。
- ゼネラル・エレクトリック:1993年に頂点に達した後の10年間は市場を大幅に上回ったが、その後は大きく落ち込んだ。
- マイクロソフト・アップル・アマゾン:首位到達後も市場をはるかにアウトパフォームしているが、著者は「まだ長い歴史を有してはいない」と慎重な姿勢を示している。IBMの前例を念頭に置いた表現だ。
- フィリップモリス:1992年3月に1カ月だけ首位に立ったが、著者は「長期的な真の勝者」と評価している。
D. 著者の結論と警告
著者の結論は2点に集約される。第1に、S&P500創設時の構成銘柄が何十年にもわたり継続更新される指数を上回ってきたという事実は多くの投資家を驚かせるが、あるセクターの市場価値が長期で上昇したからといって投資家がそのセクターで優れたリターンを得ると保証されているわけではない(石油セクターが縮小したにもかかわらず1957年以来の石油産業への投資が指数に匹敵したことがその証左だ)。
第2に、多くの勝者はやがて魅力を失い市場を下回り始めるため、勝者を長く持ち続けることは勧めない。著者は「現在S&P500の上位を占める大型ハイテク株に対する警告だろうか?おそらくそうだろう」と述べ、「天まで伸びる木はなく、永遠に上がり続ける相場もない」というウォール街の古諺で章を締めくくっている。
【検証】第4版(2005年)から第6版(2025年)への差分分析
【的中・維持】理論の骨格が20年後も保たれたもの
- 創設時銘柄の長期優位という逆説:「指数への組み入れ・除外が繰り返されるなかで、創設時銘柄が長期では指数全体を上回る」という主張は第4版からの継続的な論点だ。フィリップモリスの事例が65年間にわたって年率18.02%というデータで裏付けられており、第6版でも核心的な論拠として維持されている。
- 平均回帰の繰り返し:AT&T・IBM・GMといった過去のトップドッグが長期的に市場を下回ったという事実は、第4章の日本・BRICsの事例と同様に「異常な高みは平均に回帰する」という原理を支持している。
【修正・追記】予測とのズレが生じ、説明が更新されたもの
- 巨大IT企業のトップドッグ入りと「まだ歴史が短い」という留保:第4版時点(2005年)ではマイクロソフトがトップドッグとなった後の失速という事例は既知だったが、アップル(2011年〜)・アマゾン(2019年)という新世代のトップドッグはまだ存在しなかった。第6版ではこれらを追加しつつ、「まだ長い歴史を有してはいない」「IBMが要注意の対象」という留保を明示している。第4版時点で予測できなかった巨大IT企業の台頭を、平均回帰の枠組みに組み込んだ形だ。
- GMの倒産という事実の追加:第4版時点ではGMは存続していたが、第6版では2009年の経営破綻を踏まえ「最終的に倒産した」という事実を追記している。これはトップドッグの長期的な衰退リスクを示す最も強力な事例となった。
【峻別】経済的必然 vs 時代的偶然
経済的必然(2050年でも再現可能性が相対的に高いもの)
- トップドッグの長期的な平均回帰:AT&T・IBM・GM・GEといった過去の首位企業が長期的に市場平均を下回った事実は、「異常な高みは必ず平均に回帰する」という資本主義の基本的性質を示している。特定の企業が市場全体を永続的に支配し続けることはできないという論理は、2050年でも有効だ。
- セクター変化とリターンの非連動:石油セクターが時価総額シェアで大きく縮小しながらも、1957年以来の石油産業への投資が指数に匹敵するリターンを出したことは、「セクターの勢いとリターンは別物」という重要な事実を示している。成長セクターへの過剰な期待は、バリュエーションの先行によってリターンを抑制する。
時代的偶然(特定の条件が重なった可能性があるもの)
- フィリップモリスの独占的高リターン:年率18.02%という驚異的なリターンは、規制・訴訟リスクによって株価が常に割安に置かれ続けた(低バリュエーション)という特殊な条件と、豊富なキャッシュフローによる配当再投資効果が重なった結果だ。著者も第11章で詳述するとしているが、この構造が2050年に別のセクター・企業で再現されるとは言い切れない。
- マイクロソフト・アップル・アマゾンの首位到達後のアウトパフォーム:これらの企業が首位到達後も市場を大幅に上回り続けているのは、プラットフォーム独占・ネットワーク効果・低金利というこの時代特有の条件が重なった結果だ。著者自身が「まだ長い歴史を有してはいない」と慎重な姿勢を示しているのは、この点を暗示している。
【批判】2050年への死角
- 著者の警告は正しいが処方箋が弱い:著者は章末で「現在の大型ハイテク株への警告だろうか?おそらくそうだろう」と述べている。これは著者自身がバブル的なバリュエーションの危険を認識しているということだ。しかし本章では「だからどうすべきか」という処方箋が「長く持ち続けることはお勧めしない」という一文にとどまっており、具体的な対策に踏み込んでいない。
- GMの倒産が示す「インデックス投資の限界」:GMは長期にわたり市場をアウトパフォームしたトップドッグだったが最終的に倒産した。時価総額加重のインデックスは、GMのような企業が倒産前に大量に組み入れられている状態で大きな損失を被る構造を持つ。著者はこの点を事実として述べているが、インデックス投資の構造的脆弱性への批判としては展開していない。
- 「フィリップモリスを超える銘柄」の不在:65年間で年率18.02%というリターンは、タバコという「死の産業」が規制・訴訟で常に割安に置かれ続けたという逆説的な条件から生まれた。2050年に向けて同種の構造(社会的に嫌悪されながらも高キャッシュフローを維持する産業)がどこにあるかを問うことが、長期投資家にとっての実践的な問いになる。
- 巨大IT企業の「IBM化」リスク:著者がIBMを「要注意の対象」として言及しているのは重要だ。IBMは首位到達後1年は市場を大幅に上回ったが長期では失速した。現在のマイクロソフト・アップル・アマゾンが「首位到達後にアウトパフォームしている」のはまだ十数年の話であり、30年・40年後に同じことが言えるかは未知数だ。
【評価】第6章の評価軸
| 評価 | 論点 | 判断の根拠 |
|---|---|---|
| 【信】Core Theory | トップドッグの長期的な平均回帰、およびセクター成長とリターンの非連動 | AT&T・IBM・GM・GEが長期的に市場を下回り、GMは倒産した事実は普遍的な資本主義の性質を示す。2050年でも「永続する覇者はいない」という原理は有効だ。 |
| 【疑】Variable | 「トップドッグになることは凶兆ではない」という著者の結論 | 平均値としては正しいが、個社のバラつきが極めて大きい。マイクロソフト・アップル・アマゾンがその後もアウトパフォームしているのは事実だが、著者自身が「まだ歴史が短い」と留保しており、IBMの前例がある。条件次第で容易に覆る。 |
| 【棄】Bias | 「創設時銘柄が指数を上回る」という事実を一般化する姿勢 | フィリップモリスの18.02%という例外的リターンが平均を大きく引き上げている。この結果は規制・訴訟による低バリュエーションという特殊条件に依存しており、「古い銘柄を持ち続ければ報われる」という一般論には再現性が低い。 |
まとめ
本に記述された事実と変遷
第6章の核心は2つだ。第1に、S&P500創設時の構成銘柄が65年後に指数全体を上回ってきたという逆説的な事実。第2に、時価総額トップ企業は短中期では市場をアウトパフォームすることが多いが、長期では衰退し市場を下回る傾向があるという事実だ。
数値の確認として、フィリップモリスの年率18.02%に対しS&P500は10.78%(1957年3月〜2021年12月)。1000ドル投資が4500万ドル超、S&P500の75万ドルの約600倍。AT&Tの首位頻度456カ月・最長連続251カ月。GMは最終的に倒産し、表6-5の2021年末リターンはデータなし。また著者は「フィリップモリスとエクソンモービルを除けば、事実上すべての老舗企業が長期的には大きく業績を落としている」と明記しており、長期的な勝者が例外的な存在であることを強調している。
著者の最終的な警告は明確だ。「現在の大型ハイテク株への警告か?おそらくそうだろう」。著者自身がバブル的な状況を認識しながら、「天まで伸びる木はなく」と述べている。
将来への持論と方針
「トップドッグの長期的な平均回帰」は信じてよい。AT&T・IBM・GM・GEの軌跡が示すように、どんな企業も永続する覇者にはなれない。現在のマイクロソフト・アップル・アマゾンも例外ではないという著者の示唆は、2050年を見据えた投資判断の根拠として有効だ。
一方で「フィリップモリスのような超長期保有が報われる」という一般論には慎重だ。あの結果は規制・訴訟による常態的な割安という特殊条件の産物であり、「社会的に嫌われながらも高キャッシュフローを維持する産業」という構造を持つ銘柄を探す視点は持ちつつも、それが再現できると断言はできない。
実践的な方針として、高配当株の中でも「バリュエーションが低い理由」を精査することが重要だと考えている。フィリップモリスが示したのは「市場から嫌われた低バリュエーション株が配当再投資で報われる」という構造だ。この視点は、2050年に向けた銘柄選定の基準として参考にしたい。
最終的な結論は全章を読み終えてから出したい。
それでは。
※本記事は刊行時の記述と、著者自身による修正履歴の確認に基づいています。将来の投資環境についての記述は個人の見解であり、予測を保証するものではありません。
【免責事項】本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資は元本割れのリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。


