【名著解体:株式投資 第6版】第10章「バリュエーションの罠」から導く2050年へのサバイバルプラン

デスクの上に置かれた防災ヘルメットと『SURVIVAL INVESTING』というタイトルの分厚い投資本。背景には株価チャートが表示されたモニターがあり、震災後の生活を守る「資産防災」のイメージを表現している。 資産防災

【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資商品・投資行動を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴い、元本割れの可能性があります。投資判断はご自身の責任において行ってください。

ジェレミー・シーゲル著『株式投資(Stocks for the Long Run)』第6版 第10章のテーマは「株式市場を評価するための尺度」だ。配当利回りと債券利回りの「利回りの大逆転」に始まり、PER・CAPEレシオ・Fedモデル・バフェット指標・トービンのQ・利益率・適正PER・取引コスト低下・株式リスクプレミアムまで、株式バリュエーションの主要指標を一章で総ざらいする。本稿では原文に忠実に整理したうえで、これまでの評価軸に沿って検証する。


【抽出】第6版 第10章の核心的ロジック

A. 「不吉な前兆の再来」:1958年の利回り逆転とその教訓

著者はまず1958年の出来事から章を始める。1958年の夏、長期国債の利回りが史上初めて株式の配当利回りを上回った。1958年以前は株式の配当利回りが常に債券利回りを上回っており、金融アナリストはそれが当然だと思っていた。株式は債券よりリスクが高いのだから、より高い配当利回りを得られるのが理に適っていると考えていたからだ。

しかしこの「利回りの大逆転」の後、その後12カ月で株式の投資リターンは30%を超え、株価は1960年代に入っても上昇を続けた。さらに、株式の配当利回りが米国債の利回りを再び上回ったのは2007〜2009年の金融危機になってからだ。つまり1958年8月に株を売って債券に移した投資家は、再び株式に投資するまでに50年待たねばならなかったことになる。それにもかかわらず、過去半世紀以上にわたって株式の実質リターンは平均で年率6%を超え、債券のリターンを上回ってきた。

著者の結論は明確だ。「株式価値を測る基準は、ひとたび経済や金融の環境が変われば通用しなくなってしまう」。第二次大戦後の管理通貨制への移行に伴うインフレは、株式と債券の利回りの判断基準を永久に変えた。古い判断基準に固執した投資家は史上最大規模の上昇相場に参加できなかった。

B. 配当利回りと自社株買い

「利回りの大逆転」以降、配当利回りは低下し続けている。その主な理由は第7章で述べたとおり、自社株買いの増加だ。自社株買いは、その実施に関する規制が大幅に緩和された1980年代前半に重要視されるようになった。

著者が図10-2で示すように、配当利回りと自社株買い利回りの合計である株主還元利回りは、1960年以降極めて安定しておりむしろやや上昇傾向にある。ただし2008〜2009年の金融危機時とその直後には、自社株買い利回りがゼロになった。これはバンク・オブ・アメリカによるメリルリンチの買収やJPモルガンによるベアー・スターンズの買収など金融セクターの急激な変化によるものだ。著者は「配当利回りだけでは、市場全体の評価を示す指標としては不十分だ」と結論づけている。

C. PERと株式益回り

PERは株価を評価する最も基本的な尺度だ。著者はGAAP利益と営業利益の両方に基づくPERの推移を示している(図10-3)。GAAP利益に基づくPERは景気後退期、特に2008〜2009年の金融危機後に急上昇しているが、これは第7章で詳述したFASBの時価会計ルール変更による下方バイアスが原因だ。

著者は景気後退期の指数PERの過大評価について、「集計バイアス」という問題を具体例で説明している。A社(利益100億ドル、PER20倍、時価総額2000億ドル)とB社(損失90億ドル、時価総額100億ドル)の場合、時価総額に占めるA社の比率は95%以上だが、利益合計は10億ドルしかないため指数のPERは210倍と計算されてしまう。損失が他社の利益で相殺されないため、指数全体のPERは実際よりもはるかに高く見える。この集計バイアスは時価評価ルール変更で拡大している。

PERの逆数である株式益回りについて著者は重要な数値を示している。1870〜2021年の150年間のPERの中央値はGAAPで14.9倍、営業利益ベースで14.8倍であり、益回りの中央値は6.7%で株式の長期的な実質リターンよりコンマ数%低いだけだ。

D. CAPEレシオ:その成功と限界

1998年、ロバート・シラーとジョン・キャンベルが発表した論文で、景気循環調整後のPERであるCAPEレシオ(過去10年間の実質利益の平均で割った指数)が将来の長期リターンを予測できることが示された。CAPEレシオは将来10年間の実質リターンの変動の約3分の1を予測したが、これは成功率が低いことで有名な株式市場予測モデルとしては高い数値だと著者は述べている。

CAPEレシオが注目されたのは1996年12月、キャンベルとシラーがFRBで研究の暫定版を発表し1990年代後半の株価が大幅に上ブレしていると警告したためだ。2000年の強気市場の頂点でCAPEレシオは史上最高の43を記録し(過去平均の2倍以上)、その後10年間の株式リターンが平均以下になることを正しく予測した。

しかし著者は近年のCAPEレシオの問題も明確に示している。過去40年間(1981〜2021年)の4カ月を除くすべての期間において、実際の株式市場の10年間の実質リターンはCAPEモデルによる予測を上回った。2009年5月にCAPEモデルは市場が割高な領域に入ったことを示したが、これは歴史上最も大きな強気相場の一つの始まりとなった底値からわずか数カ月後のことだった。

近年のCAPEモデルの弱気の原因として著者は3点を挙げている。①配当利回りの低下が利益の伸びを加速させ過去10年間の平均利益を変化させた。②取引コストの削減がPERの上昇傾向を正当化している。③最も重要な原因として、FASBの損失報告ルールの変更で景気後退時の利益の減少が過大評価され、その過大な損失が10年間CAPE利益に残りPERを高くしている。

2020年、シラーはCAPEレシオを修正して超過CAPE利回り(ECY)と名付けた新モデルを発表した。CAPE益回りから実質金利を差し引き過去の平均と比較するものだ。実質金利が大幅に低下しているためECYは標準的なCAPEより株式への弱気度がはるかに低い。

著者は重要な事実も伝えている。2022年2月、シラー自身がインタビューで「150年のデータがあるにもかかわらず重複のない観測データはわずか15件であり統計的有意性を引き下げている」と述べ、「正しいCAPEレシオとは何かという質問に対して『わからない、私たちは常に新しい時代に突入しているのだ』と答えた」と著者は記している。

E. Fedモデル:株式益回りと国債利回りの比較

1997年、FRBの研究者が発表した論文で株式益回りと30年物国債利回りの相関関係が明らかになり「Fedモデル」と呼ばれるようになった。グリーンスパンはこの論文を支持し、株式益回りが債券利回りを下回っているときは株価が過大評価、逆の場合は過小評価とみなしうる発言をした。論文によれば株価が最も過大評価されていたのは1987年8月(直後に大暴落)、最も過小評価されていたのは1980年代初頭(長期上昇相場の始まり)だった。

著者はFedモデルの概念的な欠点を指摘している。株式は実物資産であり価格はインフレとともに上昇するため、株式益回りと債券の名目金利ではなく実質金利で比較するのが適切だ。実際それがシラーのECYモデルの基本だと著者は述べている。また1960〜2000年以外の期間では株式益回りと名目金利の相関は非常に弱い。

ただし極端な状態での転換点シグナルとしては機能することがある。2000年のドットコムバブルピーク時、株式の益回りは3%強、10年物TIPSの利回りは4%強だった。このネガティブ・リスクプレミアム(益回りからTIPS利回りを引いたもの)が異常に高くなり、その後の株価下落のシグナルとなった。

F. バフェット指標(時価総額/GDP比率)

ウォーレン・バフェットが2001年に好む市場バリュエーション指標として紹介した、株式市場の時価総額の対GDP比率だ。バフェットは70〜80%に低下した2001年は「買い」であるが、1999年のように2倍近くに高騰したときは「非常に危険」であると指摘した。2021年にはこの比率が史上最高値まで上昇した。

著者はこの指標の欠点を2点挙げている。①非公開企業と比較した公開企業の数や規模の変化を考慮していない。②より重要なこととして、海外での売上の割合が第二次世界大戦後に飛躍的に増加し現在では売上と利益のほぼ2分の1を占めているため、米国のGDPが世界経済に対して縮小すれば、米国の多国籍企業の利益と市場バリュエーションはGDPに対して上昇するはずだ。著者はバフェットの比率の上昇傾向はこの要因で容易に説明できると述べている。

G. トービンのQ:有力だが知的財産に盲目な指標

ノーベル賞経済学者ジェームズ・トービンが考案したQは、インフレ調整後の簿価(資産と負債の「再調達価格」)に対する時価総額の比率で、適正ならば1になるとされる。2000年にスミザーズとライトが著書でQを「最も優れた方法」として推進し米国・英国・欧州の株価が大幅に割高だと主張した。

著者は「Qレシオを使った予測は過去10年間、同様の失敗を繰り返している」と指摘し、その最も重要な欠点として簿価が知的財産を評価できない点を挙げる。研究開発費は資産化されないため時価総額に表れない。2022年2月時点でマイクロソフトの簿価は1株当たり22ドルで株価は300ドル、アップルの簿価はわずか4.40ドルで株価は160ドル程度だった。著者は「簿価は過去の土台であり、株価は収益予想から導かれた将来見通しである」とまとめている。

H. 利益率の高止まりとその理由

企業の利益率は少なくとも50年ぶりの高水準に上昇している(図10-7)。弱気筋は「利益率は持続不可能であり下がれば大幅な下落につながる」と主張している。著者は利益率が高いままで大きく下がることはないと考えられる理由として、低い名目および実質金利、法人税率の低下、テクノロジー企業の割合が急増していること、歴史的に国内販売より利益率の高い海外販売の割合が増加していることを挙げている。

数値として著者は「2021年の企業の利益率は、テクノロジー株を除くと13.1%から10.6%に低下する」と示している。これはまだ過去の平均より高いが、より高い利益率の大部分は過去30年間の海外売上高の増加と税率の低下によって説明できるとしている。

I. 取引コストの低下と適正PERの構造的上昇

過去150年間の市場のPERの中央値は約15倍だったが近年は高くなる傾向がある。著者はPERが長期的に上昇する最も重要な経済的理由として取引コストの低下を挙げている。

コロンビア大学のチャールズ・ジョーンズの研究によると、株式の取引コスト(買値と売値の差と手数料の合計)は、1975年まで(手数料自由化以前)は片道で取引額の1%を超えていたが、2002年には0.18%を下回り、現在ではさらに低下している。

著者はその意味を具体的に示す。19世紀から20世紀初頭には株価指数に連動した分散ポートフォリオに年率1〜2%の取引コストが必要で、取引コスト差し引き後の実質リターンは年率5%程度にしかならなかった。投資家の要求リターンが5%なら、5%の益回りをもたらすPERは20倍となる。著者は「これが今日の市場の均衡PERとなっているのだろう」と述べている。

J. 実質金利低下・株式リスクプレミアムの縮小とPER上昇

著者はPER上昇を正当化するもう一つの要因として実質金利の低下を挙げながら、重要な留保を置いている。「実質利回り低下の理由の多く、なかでも成長の鈍化とリスク回避の高まりは必ずしも株価を上昇させるものではない」。ただし債券は株式の代替資産として最も重要であり、その利回りが急低下するならば株式のバリュエーションが割高になったとしても多くの投資家は確実に株式にとどまると述べている。

さらに著者は株式リスクプレミアム自体の縮小がPER上昇をもたらしうることを示す。メーラとプレスコットの1985年の「株式プレミアム:パズル」論文では、経済学者のリスク・リターンモデルでは過去データの株式と確定利付き資産とのリターン差を説明できず、株式プレミアムが少なくとも1%弱は修正されなければならないことが示された。株式の長期的優位性が十分に認識されれば株式への需要が高まりPERは過去の水準から大幅に上昇するはずだという論理だ。ただし著者はボスランド教授(1936年)の言葉を引用して、「株式投資の収益性の高さが広く知られるにつれ将来の株式投資から得られる利益は減少する傾向にある」という逆説も示している。

K. 著者の結論:重要な警告を含む

著者は「80年以上にわたって株式のアウトパフォーマンスが続いているにもかかわらず、株式のバリュエーションの水準は歴史的平均値からほとんど上昇していない」と述べた上で、重要な警告を発している。

将来の株式リスクプレミアムが低下した場合、まず株価が上昇し、退職後のポートフォリオから消費したい高齢者世代の株主にはメリットがあるが、若い世代の投資家にとっては株式の長期リターンが低下することになる。

これは「高PERが永続する」という楽観論ではなく、PER上昇が実現した場合に若い投資家が将来受け取るリターンが低下するという構造的な問題への言及だ。


【検証】第4版(2005年)から第6版(2025年)への差分分析

【的中・維持】理論の骨格が20年後も保たれたもの

  • 「バリュエーション基準は経済環境の変化で通用しなくなる」という警告:1958年の利回り逆転の事例が示す「古い判断基準に固執した投資家は大きなリターンを逃す」という教訓は、2022年の金利急上昇局面でも同様に適用される。この教訓は20年間維持されている。
  • CAPEの2000年ITバブルへの警告機能:2000年の頂点でCAPEが43(過去平均の2倍超)を記録し、その後10年間の低リターンを正しく予測したことは第4版でも示されていた。第6版でも事実として維持されている。
  • 取引コスト低下によるPER底上げ論:20年間一貫して維持されており、インデックスファンドのさらなる低コスト化で裏付けが強まっている。

【修正・追記】予測とのズレが生じ、説明が更新されたもの

  • CAPEの慢性的な弱気という新たな問題:第4版時点ではCAPEは有力な指標として扱われていた。第6版では「過去40年間(1981〜2021年)の4カ月を除くすべての期間で実際の10年リターンがCAPEの予測を上回った」という事実が追加され、指標の限界が鮮明になっている。シラー自身が「正しいCAPEはわからない」と述べたことまで著者は引用しており、指標への評価が大きく変化した。
  • シラーのECYへの移行の追記:第6版特有の追記として、シラーが2020年にCAPEを修正してECYを発表したことが加えられた。
  • バフェット指標の欠陥の明示:海外売上高の増加により時価総額/GDP比率の上昇傾向が説明できるという論点が第6版で追加されており、この指標への批判が深まっている。

【峻別】経済的必然 vs 時代的偶然

経済的必然(2050年でも再現可能性が相対的に高いもの)

  • 「バリュエーション基準は経済環境の変化で陳腐化する」という原理:1958年に「株式配当利回り>債券利回り」という100年信じられた基準が通用しなくなった事実は、「現在の基準も将来の経済環境の変化によって陳腐化しうる」という普遍的な警告だ。この原理は2050年でも有効だ。
  • 集計バイアスの数学的構造:大きな損失を計上した企業が指数PERを歪める集計バイアスは、インデックスの構造から生まれる数学的帰結だ。景気後退期の「PERが高いから割高」という誤読は2050年でも繰り返される可能性がある。
  • 取引コスト低下は不可逆的:テクノロジーの進化によるコスト低下は逆戻りしにくく、適正PERの構造的な底上げとして有効だ。

時代的偶然(特定の条件が重なった可能性があるもの)

  • CAPEの慢性的弱気が示す「超低金利時代の特殊性」:過去40年間CAPEの予測が外れ続けた主因は超低金利・QE・テック株独占という特殊条件だ。この条件が終われば(実際2022年には金利が急上昇した)CAPEの予測精度が回復する可能性もある。
  • 利益率を支える低金利・低法人税率・グローバル化:著者自身が挙げるこれらの条件は政策的選択の産物であり逆転リスクを持つ。
  • バフェット指標の上昇傾向を支えた多国籍企業の海外展開:地政学的分断が進んだ場合、海外売上高の増加という条件が変質しバフェット指標の正当化論が崩れる可能性がある。

【批判】2050年への死角

  • 「今回は違う」が正しかったという事実の持つ危険性:著者は章末で「今回は違う」という言葉も時には真実かもしれないと述べている。1958年の利回り逆転はまさにその事例だった。しかしこの論理は「どんな高バリュエーションも時代の変化で正当化できる」という議論に転用されうる。2000年のCAPE43のような状況でも「今回は違う」という主張は必ず存在した。著者はこの緊張関係を明示しているが、読み手がどちらに傾くかは個人の判断に委ねられている。
  • シラー自身の「わからない」という発言の重さ:CAPEレシオを開発したシラー自身が「正しいCAPEとは何かはわからない、我々は常に新しい時代に突入している」と述べた事実は重大だ。指標の開発者が予測精度に疑問を示している以上、いかなるバリュエーション指標も将来リターンの確実な予測器として使うことはできない。
  • 著者の結論が示す「若い世代への警告」を見落とすリスク:PER上昇には取引コスト低下やリスクプレミアム縮小という経済的根拠がある一方で、若い世代の将来リターンが低下するという帰結も確実だ。「高PERには根拠がある」という前半だけを読んで「今の株価水準で長期保有すれば過去と同じリターンが得られる」と解釈するのは著者の結論の読み間違いだ。
  • 「均衡PER20倍」の循環論法:「取引コストが下がったから要求リターンが5%になり均衡PERは20倍」という論理は「投資家が5%を要求する」という前提に依存する。インフレ高止まりで要求リターンが上昇した場合、均衡PERは20倍を下回ることになる。

【評価】第10章の評価軸

評価論点判断の根拠
【信】Core Theory「バリュエーション基準は経済環境の変化で陳腐化する」という1958年の教訓、および取引コスト低下による適正PERの構造的上昇。さらに「PER上昇=若い世代の将来リターン低下」という著者の最終的な警告1958年の事例は普遍的な警告だ。取引コスト低下は不可逆的。著者の結論が示すPER上昇と将来リターン低下の関係は数学的に正しく2050年でも有効だ。
【疑】VariableCAPEレシオ・Fedモデル・バフェット指標などの具体的な予測指標の有効性シラー自身が「わからない」と述べており、いずれの指標も条件依存だ。2000年のITバブルには機能したが過去40年間は慢性的に弱気すぎた。経済環境次第で機能したりしなかったりする。
【棄】Bias「利益率の高止まりが続く」という楽観的予測低金利・低法人税率・グローバル化という条件依存だ。テクノロジー株を除くと13.1%から10.6%に低下するという著者自身のデータが示す通り、テック株を除けば過去平均より高いが説明可能な水準だ。これらの条件が変化すれば楽観的予測の前提が崩れる。

まとめ

本に記述された事実と変遷

第10章の核心は以下の4点だ。第1に、バリュエーション基準は経済環境の変化によって陳腐化する(1958年の利回り逆転の教訓)。第2に、CAPEレシオは2000年には機能したが過去40年間は慢性的に弱気すぎ、シラー自身が「正しいCAPEはわからない」と認めた。第3に、取引コストの低下(1975年以前に片道1%超→2002年に0.18%以下)は適正PERを約15倍から約20倍へと構造的に押し上げる論拠となりうる。第4に、この「適正PERの上昇」の帰結として若い世代の株式の長期リターンが低下する。

数値の確認として、1870〜2021年のPER中央値はGAAPで14.9倍・営業利益で14.8倍、益回りの中央値は6.7%。2000年のCAPEは史上最高値43。2021年のテクノロジー株を除く利益率は13.1%から10.6%に低下。バフェット指標は2021年に史上最高値。マイクロソフトの簿価22ドル/株価300ドル、アップルの簿価4.40ドル/株価160ドル(2022年2月)。

将来への持論と方針

「バリュエーション基準は経済環境の変化で陳腐化する」という著者の出発点は信じてよい。1958年の教訓は2050年でも有効であり、現在「常識」とされている指標が将来通用しなくなる可能性を常に意識しておく必要がある。

一方で著者の最終結論が示す通り、現在の高いPERは将来の期待リターンが過去より低いことを意味する。高配当株をポートフォリオの軸に据える方針は、バリュエーションに依存するキャピタルゲインではなく実際のキャッシュフロー(配当)を確保するという観点から、この低リターン環境への対応として引き続き合理的だと考えている。

いかなるバリュエーション指標も確実な予測器とは言えないが、極端な状態(2000年のCAPE43、あるいはネガティブ・リスクプレミアム)は転換点のシグナルとして参考にする価値がある。「今回は違う」という論理の誘惑には、常に慎重でいたい。

最終的な結論は全章を読み終えてから出したい。

それでは。

※本記事は刊行時の記述と、著者自身による修正履歴の確認に基づいています。将来の投資環境についての記述は個人の見解であり、予測を保証するものではありません。

【免責事項】本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資は元本割れのリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。

タイトルとURLをコピーしました