【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資商品・投資行動を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴い、元本割れの可能性があります。投資判断はご自身の責任において行ってください。
ジェレミー・シーゲル著『株式投資(Stocks for the Long Run)』第6版 第14章のテーマは「ファクターの動物園――規模、バリュー、モメンタム、その他」だ。CAPMのベータから始まり、ファーマ・フレンチのスリーファクター、さらにはモメンタム・収益性・流動性・低ボラティリティと膨張し続けた「市場に勝つための指標」は、過去20年間ほとんど機能しなかった。本稿では原文に忠実に整理したうえで、これまでの評価軸に沿って検証する。
【抽出】第6版 第14章の核心的ロジック
A. ファクター研究の爆発的な増加
著者はまず、CAPMにおけるファクターの定義を整理する。CAPMでは株式の期待リターンを決定するファクターはベータ1つだった。相関が高い株式は期待リターンが高く、相関がゼロであれば期待リターンは無リスク資産と同じ、相関がマイナスのものはヘッジ資産として期待リターンがさらに低くなるとされた。
その後ファーマとフレンチの実証研究によって、PBRに基づくバリュエーションと時価総額という2つのファクターがベータよりはるかに重要であることが確認され、小型株のリターンが大型株よりも優れていることも示された。これらはファーマ-フレンチのスリーファクターモデルとして1980年代後半から1990年代に支配的な戦略となった。
ファーマとフレンチはその後「収益性」と「投資」を追加したファイブファクターモデルを構築した。他の研究者も利益の質・株式発行・流動性・ボラティリティ・モメンタムなど多数のファクターを発見した。ジョン・コクランは2011年の米国ファイナンス学会会長講演でこのファクターの爆発的増加を「動物園」と呼び、データマイニングへの懸念を示した。キャンベル・ハーヴェイとヤン・リュウも、学術雑誌に肯定的な結果の論文が圧倒的に増えたことで「データマイニングが始まる」と警鐘を鳴らした。
B. 主要ファクターの長期的展望
図14-2は1926年から2021年までのバリュエーション・時価総額・モメンタムのファクターを活用したポートフォリオの累積リターンを示している。各ファクターで上位30%(PBRが低い・時価総額が小さい・モメンタムが高い)をロング、下位30%をショートとするロング・ショート戦略の結果だ。
著者が指摘する大まかなトレンドは3つだ。第1に、1930年代の大きな変動にもかかわらず1940年代前半には1926年とほぼ同じ水準に戻っている。第2に、モメンタムファクターの強さと持続性は他のファクターを圧倒している。第3に、モメンタムを含むすべてのファクターが過去20年間リターンにほとんど、あるいはまったく寄与していない。実際、規模(時価総額)ファクターはほぼ40年間リターンにまったく寄与していない。
C. 時価総額(規模)ファクター
時価総額ファクターの発見はファーマとフレンチの研究よりずっと前のことだ。1981年、シカゴ大学の大学院生ロルフ・バンズがCRSPのデータをもとに調査したところ、CAPMでリスクを調整した後でも小型株のリターンが大型株を常に上回ることを発見した。1926年から1980年にかけて、時価総額が下位20%の銘柄の年間リターンは上位20%の銘柄を約4パーセントポイント上回っており、ボラティリティの高さから予測される値をはるかに超えていた。
なぜ小型株が大型株をアウトパフォームするのか。著者はいくつかの説を紹介している。小型株の売買コストの高さへの対価という説、情報量が少なくアナリストも少ないため真のバリュエーションが不確実であるという説、機関投資家が小型株に大きなポジションをとるために必要なインセンティブが大きいという説などだ。
D. 小型株プレミアムの異常な特徴
図14-3が示す通り、1926年から2021年の全期間で小型株(CRSPデータベースの下位20%)は年率11.99%と、S&P500の10.35%をアウトパフォームした。しかしその内訳を見ると、1946年から1974年まで小型株はS&P500に遅れをとっていた。
1975年から1983年末までの9年間は例外的に爆発的な上昇を記録した。この間の小型株の年率リターンは35.3%で、大型株の15.7%の倍以上となった。9年間の累積リターンは1400%を超えた。この期間の追い風として著者は、1974年のERISA(従業員退職所得保障)法の成立により年金基金が小型株に投資しやすくなったことと、ニフティ・フィフティ暴落後に投資家が小型株に注目し始めたことを挙げている。
特筆すべきは、1975年から1983年の9年間を除くと、小型株のトータルリターンはS&P500とほぼ一致するという事実だ。この9年間を除いた場合、小型株の年率リターンは10.03%、S&P500が9.80%とほぼ同等となり、95年間の優位性の大部分がこの9年間に集中していたことがわかる。
小型株効果のさらに珍しい特徴として著者は「1月効果」を挙げる。小型株の超過リターンのほぼすべてが1月に発生していることが判明しており、この1月効果は近年消滅しているため小型株リターンが低下する一因となった可能性があると述べている。
エコノミストのなかには真の時価総額ファクターが存在したのかを疑問視する人もいる。多くの小型株の特徴である高ベータ銘柄はCAPMの予測よりも低いリターンを示し、このファクターを考慮すると小型株のアウトパフォーマンスは完全に消失するという研究もある。財務的困難の有無や利益の質でスクリーニングすれば小型株効果を回復できるという主張もあり、議論は現在も続いている。
E. 小型株とバリュー株の組み合わせ
表14-1が示す通り、バリュー投資では大型株よりも小型株で収益が高いことが以前から認識されている。1926年から2021年までの全期間において、時価総額の下位20%の小型バリュー株は年率16.24%のリターンを記録しているのに対し、小型グロース株は2.83%にすぎない。大型株ではバリュー効果はずっと小さく、大型グロース株と大型バリュー株の差は年率1パーセントポイント未満だ。
ただし近年は大幅に変化している。2006年から2021年の15年間では、時価総額が下位の階層ではバリュー株がグロース株を上回っているが、下位20%を除く他の階層ではグロース株がバリュー株を上回っている。S&P500の構成銘柄に近い時価総額上位20%の階層では、グロース株のリターンはバリュー株を年率6パーセントポイント近くも上回っている。
小型バリュー株が小型グロース株を上回る理由として著者は3点を挙げる。フォローするアナリストが非常に少ないため価格が本質的価値から長い期間逸脱する可能性があること、小型グロース株はボラティリティが高く一発当てたい投資家を引きつけること、出来高や浮動株数が少ないためノイズトレーダーの影響が大きいことだ。
F. 国際的にみた時価総額とバリュー投資
表14-2が示す通り、1990年から2021年まで世界のすべての主要地域において小型バリュー株のリターンは大型グロース株を上回っている。小型バリュー株のアウトパフォーマンスは米国で最も小さく、新興国市場で最も大きい。
しかし2006年から2021年の間、すべての地域でバリュー株がグロース株をアウトパフォームした程度は縮小した。米国と欧州では同期間に大型グロース株のリターンが小型バリュー株を上回った。一方、日本・アジア・新興国市場では小型バリュー株のリターンが大型グロース株を依然として上回っている。著者はバリュー投資のアンダーパフォーマンスは先進国(とくにテクノロジー株の急騰がグロース株のリターンを押し上げた米国)以外ではそれほど深刻ではないと指摘している。
G. モメンタム
1985年にヴェルナー・デボンとリチャード・セイラーは、過去5年間に市場をアウトパフォームした銘柄のポートフォリオは次の3年から5年は市場をアンダーパフォームし、逆もまた真であることを示した。彼らは「ポートフォリオ形成から36カ月経つと、負けていた銘柄が勝者の銘柄より約25%多く利益を得ている」と結論付けた。この長期的な逆転現象は株価のランダムウォーク理論や効率的市場仮説にまったく反するものだった。
しかしデボンとセイラーが見いだした長期的な逆転現象は、短期的には検出されなかった。1990年にナラシムハン・ジャガディッシュは、過去12カ月間市場を上回った銘柄は次の12カ月間でも上回り続け、敗者は市場に遅れ続けることを発見した。これらの超過リターンは大きく、他のどのファクターよりも影響力が大きく、米国市場以外にも及んでいる。研究者はさらに、個別銘柄のボラティリティに基づいてモメンタム銘柄を選別する「スーパーモメンタム」戦略の証拠も発見した。モメンタム銘柄のなかで最もボラティリティの高いものを選ぶと、標準的なモメンタム戦略から得られるリターンの約2倍のリターンが得られるという。
著者はグレアムとバフェットがモメンタム投資を強く否定していたことも紹介している。グレアムは「株が上がったから買う、下がったから売るということは絶対にするな」と述べ、バフェットも「株を買う理由として世界で最もばかげているのは、その株が上昇しているからというものだ」と警告した。ファーマ自身も「モメンタムは、市場の効率性を損なう可能性のあるもののなかで最も重要だ」と認めている。
モメンタム戦略が成功する理由として著者は行動に基づく2つの説明を紹介している。第1は「保守性バイアス」で、投資家が当初業績サプライズへの反応が鈍く、その後続けてサプライズが生じると過剰反応し増益(または減益)が必要以上に将来まで続くと考えるというものだ。第2は、株価の方向性を正しく予測したトレーダーが自己強化的な影響を与えるというものだ。
モメンタム戦略のデメリットとして著者は2点を挙げる。他のどの戦略よりもポートフォリオの入れ替えが多く取引コストが大きいこと、弱気相場の底値付近で非常に急激な下落が発生することがあることだ。また他のすべてのファクター戦略と同様に、モメンタム戦略も過去20年間市場リターンにほとんど勝っていないと著者は述べている。
H. 投資(設備投資)と新株発行ファクター
2015年にファーマとフレンチはスリーファクターモデルに2つのファクターを追加した。1つは企業が行う資本支出(投資)の水準、もう1つは収益性の指標だ。シェリダン・ティトマンらの研究に基づき、資本支出を増加させる企業は設備投資に保守的な企業よりも株主リターンが低いことを示した。著者は2005年の自著『株式投資の未来』の「資本を食う豚」の章でも、S&P500のうち売上高に対して最も資本支出が多かった企業群のリターンが最も資本支出の少なかった企業群に比べて大きく遅れをとっていることを実証したと述べている。
過剰な資本支出に関連するもう1つの要因として著者は新株発行を挙げる。1990年代初頭にジェイ・リッターが初めて指摘し、ファーマとフレンチも確認している。過剰な投資は期待よりも低いリターンをもたらすため、その資金調達に使われることが多い新株発行も低いリターンをもたらす。逆に自社株買い(負の株式発行)を行う企業は行わない企業よりもリターンが優れていることはすでに述べたとおりだ。
I. 収益性ファクター
ファーマとフレンチがスリーファクターモデルに加えた2つ目のファクターは収益性で、年間売上高から売上原価と利息を除いたものを簿価純資産で割ったものと定義されている。2013年にロバート・ノビーマークスは、収益性は企業の将来の成長を強く予測する因子であり、収益性ファクターをバリューファクターと組み合わせた場合に非常に効果があると指摘した。収益性ファクターはスニル・ワハルがサンプル外のデータで確認し信頼性をさらに高めた。
著者はこのファクターが「当期純利益」よりも真の価値を示し将来の収益をより正確に予測するという主張で正当化されたと説明し、これは市場の効率性を否定するさらなる証拠だと述べている。
J. その他の利益の質ファクター
収益性の変数以外にも、投資家が無視しているように見える企業収益に関するファクターが複数ある。リチャード・スローンは、実際にはまだ発生していない会計発生高(アクルーアル)が当期純利益に大きな影響を与えることを発見した。会計発生高が通常より高い企業は将来のリターンが低いことを示した。
複合ファクターの研究として著者はクリフ・アスネス、アンドレア・フラッツィーニ、ラッセ・ペデルセンが利益の質と収益性のファクターを組み合わせた「クオリティ・マイナス・ジャンク」という指標を紹介している。またロバート・スタンボーとユー・ユアンは11の著名なファクターを1つにまとめ、ファーマとフレンチのファイブファクターモデルを上回るパフォーマンスを実現した。
K. 低ボラティリティ投資
低ボラティリティのポートフォリオに投資して市場に勝つアプローチには、最近まで十分な支持証拠があった。低ボラティリティ銘柄の株式リターンが高い理由として著者は、空売りに対する規制や回避によりバリュートレーダーがこれらの銘柄を空売りしづらく本来の価値に引き戻すことが難しいため、ファンダメンタルバリューを上回って取引される可能性が高くなり長期的なリターンは低下するという説明を紹介している。
しかしこのファクターのリターンは近年大幅に低下している。2020年・2021年に低ボラティリティファンドが低迷したため、1963年から2021年までの低ボラティリティファクターのリスク調整後リターンはマイナスとなった。低ボラティリティ投資は利益の質など他のいくつかのファクターと相関があり、独立した強いファクターであるかどうかを疑問視する研究者もいる。
L. 流動性ファクター
1986年にヤコフ・アミフドとハイム・メンデルソンは、ビッド・アスク・スプレッドの大きさを特徴とする流動性の低い銘柄のリターンが流動性の高い銘柄を上回ることを示した。ロジャー・イボットソンらは株式回転率を用いてこの結果を確認し、1972年から2010年までのニューヨーク証券取引所・アメリカン証券取引所・ナスダック市場の全銘柄を分析した結果、回転率が最も低い四分位(25%)の銘柄の年率複利リターンは14.5%で、回転率が最も高い四分位の銘柄の約2倍であることを明らかにした。
ロバート・スタンボーとルーボス・パストールは個別銘柄の流動性だけでなく株式市場全体の流動性効果が存在することを示した。2008年のリーマン・ショック・1998年のLTCM破綻・コロナ禍のような市場全体の流動性不安が生じたときに個別銘柄がどのように反応するかを示す指標を構築した。
1966年から1999年にかけて、ベータ・時価総額・バリュー・モメンタムの各ファクターで調整した結果、流動性への感応度が高い株式の平均リターンは感応度が低い株式のリターンを年率7.5%上回ることを確認した。さらに同じ34年間のモメンタム戦略の利益の半分は流動性リスクファクターで説明できると主張している。
M. 米国以外のファクター投資
表14-3によれば、近年ほとんどの海外市場のドル建てリターンは米国に及ばないが、ほとんどの海外市場は米国よりもさらに大きなファクター投資の優位性を記録している。1990年から2021年まで時価総額・バリュエーション・収益性・設備投資・モメンタムの5つのファクターの平均値は日本を除くすべての地域で米国より大きい。
最大の驚きはモメンタムファクターの強さだと著者は述べている。日本を除くすべての地域でモメンタムは最も重要なファクターであり、いくつかの地域では大差で最も重要だ。2006年以降、米国ではファクター投資の正味の効果がほぼ消滅(平均マイナス0.10%)したが、海外では依然としてプラスが続いている。
ファクター投資が最も効かない地域は日本だ。ファクター投資のリターンの合計が他の地域の2分の1以下であるだけでなく、モメンタム投資のリターンがマイナスとなっている。著者はその説明として、1989年から1993年の主要国最大規模の約80%の株価暴落を経験した日本の投資家が「トレンドフォロー」を思いとどまるようになったという仮説を示している。
N. 結論
著者の結論は2点だ。第1に、モメンタムは全期間を通じて圧倒的に強いファクターであるが、2006年から2021年の期間ではほとんどのファクターの効果が減退するか完全に消滅している。第2に、ノイズの多い市場においては、とくに利益の質・バリュエーション・自社株買いを基準にバリュエーションの低い銘柄に傾けることが正当化されるようだ。ただし忍耐は必要で、戦略は何年も何十年も空回りした後で再び威力を発揮することがある。単一の戦略を採用してはならず、広範な分散投資は常に投資家のポートフォリオのコアであるべきだと述べて章は締めくくられている。
【検証】第4版(2005年)から第6版(2025年)への差分分析
【4版(2005年)の心理構造】
「小型株・バリュー株・モメンタムというファクターは歴史的に有効であり、
ファクター戦略でインデックスを上回ることは長期的に可能だ」
↓
【6版(2025年ベース)での現実】
2006年以降、ほぼすべてのファクターが機能しなくなり、
とくに小型株と規模ファクターは40年近く貢献がゼロに近い。
↓
【シーゲルの対応】
「ファクターの多くは過去20年間に効果が薄れた。しかし利益の質・
バリュエーション・自社株買いを組み合わせれば今後も正当化される。
単一戦略は禁物、忍耐と分散が重要だ」
| 評価軸 | 具体的象徴 | 4版から6版への変質と分析 |
|---|---|---|
| 【改善・的中】 | 収益性・投資ファクターの追加と「クオリティ・マイナス・ジャンク」の有効性 | 4版では収益性ファクターへの言及が薄かったが、6版ではファーマ・フレンチのファイブファクターモデルと、アスネスらの複合ファクターが実証的に裏付けられた。収益性の高さをバリューと組み合わせる視点は、単純なPBRスクリーニングが機能しない環境での理論的アップグレードだ。 |
| 【修正・誤認】 | 小型株プレミアムと単純なバリュー・規模ファクターの普遍性 | 4版では小型株・バリュー株ファクターの有効性を相対的に強調していたが、6版では小型株のアウトパフォーマンスがほぼ1975〜1983年の9年間に集中しており、それを除くとS&P500とほぼ同等だという不都合な事実を正直に示した。また規模ファクターはほぼ40年間リターンに寄与していないと認めた。 |
【峻別】経済的必然 vs 時代的偶然
経済的必然(2050年でも再現可能性が相対的に高いもの)
- モメンタムの行動的基盤: 投資家が業績サプライズへの反応が鈍く、その後過剰反応するという「保守性バイアス」は人間の認知構造に根ざしており、2050年でも完全には消滅しない。ただし取引コストが超過リターンを侵食するリスクは常に存在する。
- 流動性リスクプレミアムの経済的論理: 流動性の低い資産には高いリターンが求められるという原則は、資本市場の基本的な均衡原理だ。危機時に流動性が消滅するリスクを負う投資家が、平時に超過リターンを得るという構造は再現可能性が高い。
- 過剰投資・新株発行の負の効果: 資本効率の悪い企業が株主リターンを損なうという数理的関係は資本主義の構造上の必然だ。バフェットが1985年に繊維会社の事例で示した原則は、業種を問わず有効だ。
- 収益性ファクターとバリューの組み合わせ: ノビーマークスが示した「収益性の高いバリュー株」という組み合わせは、単純なPBRスクリーニングが劣化した後でも理論的根拠を持つ。
時代的偶然(特定の条件が重なった可能性があるもの)
- 1975〜1983年の小型株の爆発的上昇: ERISA法成立・ニフティ・フィフティ暴落後の資金流入という特定の制度的・歴史的条件に依存した9年間だった。この条件が再現する保証はない。
- 低ボラティリティファクターの機能不全: 2020〜2021年のリターン急落で1963〜2021年全期間のリスク調整後リターンがマイナスに転落したことは、このファクターが特定の時代に機能した「偶然の産物」だった可能性を示している。
- 規模ファクターの40年の不毛: 小型株プレミアムが1981年に論文として発表・広まった直後から機能しなくなったという事実は、「発見されたファクターは市場に裁定される」というパターンを典型的に示している。
【批判】2050年への死角
① 「動物園」化するファクター研究の根本問題
ハーヴェイとリュウが指摘するように、学術雑誌に肯定的な結果の論文が圧倒的に増えたことでデータマイニングが横行している。発表されたファクターの多くが実際には過去データへの過剰適合(オーバーフィッティング)にすぎない可能性がある。2050年に向けて最大のリスクは、発見されたばかりに見えるファクターが実は過去データのノイズにすぎず、将来のリターンを何も予測しないという状況だ。
② AIとアルゴリズム取引によるファクタープレミアムの消滅加速
機関投資家のアルゴリズムが知られたファクターを自動的に取引するようになれば、ファクタープレミアムは発見と同時に消滅する速度が加速する。小型株プレミアムが1981年の発見後すぐに機能しなくなったパターンは、AI化が進む2050年に向けてさらに広範なファクターに波及する可能性がある。
③ 日本の教訓:モメンタムが機能しない市場の存在
日本ではモメンタムファクターのリターンがマイナスという唯一の例外的な市場が存在する。著者は1989〜1993年の約80%の暴落を経験した日本の投資家がトレンドフォローを忌避するようになったという仮説を提示しているが、これは「行動的バイアスは文化・歴史によって大きく異なる」ことを示唆している。2050年の多極化する世界では、各地域の歴史的経験がファクターの機能に大きな差をもたらす可能性がある。
【評価】第14章の評価軸
| 評価 | 論点 | 判断の根拠 |
|---|---|---|
| 【信】Core Theory | 収益性・投資ファクター(クオリティ)とバリューの組み合わせ、および流動性リスクプレミアムの経済的論理 | 収益性の高いバリュー株という組み合わせはノビーマークスが実証し、流動性の低い資産への超過リターンは資本市場の均衡原理から導かれる。どちらも経済的な必然性を持ち、2050年でも有効な視点だ。 |
| 【疑】Variable | モメンタムファクターの長期的有効性 | モメンタムは全期間で最も強いファクターだが、取引コストの問題・急激な下落リスク・過去20年の機能不全・日本での機能不全という複数の問題を抱えており、将来の環境(AIトレーダーの増加等)によって有効性は大きく変化する。 |
| 【棄】Bias | 単純な小型株プレミアムへの期待と低ボラティリティファクターへの過信 | 小型株のアウトパフォーマンスは1975〜1983年の9年間に集中しており、それを除くとS&P500とほぼ同等だ。規模ファクターはほぼ40年間リターンに寄与していない。低ボラティリティファクターは1963〜2021年全期間のリスク調整後リターンがマイナスとなった。どちらも将来に期待を寄せるべき根拠は薄い。 |
まとめ
本に記述された事実と変遷
第14章の核心は「ファクター戦略は長期データでは有効に見えるが、発見後・近年はほぼ機能しなくなっており、残存する有効性は収益性・バリューの組み合わせと流動性・モメンタムの一部に限られる」という結論だ。
主な数値を確認すると、1926〜1980年において時価総額下位20%の小型株は上位20%の大型株を年間約4ポイント上回った。1975〜1983年の小型株年率リターンは35.3%(大型株15.7%)、9年間の累積リターンは1400%超。1926〜2021年の全期間では小型株11.99%、S&P500が10.35%だが、1975〜1983年を除くと小型株10.03%、S&P500が9.80%とほぼ同等になる。1926〜2021年の小型バリュー株は年率16.24%、小型グロース株は2.83%。2006〜2021年では大型グロース株が大型バリュー株を年率6ポイント近く上回った。デボン・セイラーの研究では36カ月後に敗者が勝者より約25%多く利益を得た。流動性感応度の高い株が低い株を1966〜1999年に年率7.5%上回った。イボットソンの研究では回転率最低四分位の年率複利リターンは14.5%で最高四分位の約2倍。1963〜2021年の低ボラティリティファクターのリスク調整後リターンはマイナス。モメンタム戦略の利益の半分は流動性リスクで説明できる。
将来への持論と方針
著者の結論「単一の戦略を採用してはならない。広範な分散投資は常にコアであるべきだ」は信じてよい。ファクター研究の「動物園」化は、どの単一ファクターも絶対的な優位性を持つわけではないことを示している。
実践的な示唆として残るのは3点だ。第1に、収益性の高いバリュー株という組み合わせは単純なPBRスクリーニングよりも経済的な根拠を持つ。第2に、流動性の低い資産へのリスクプレミアムは合理的な経済原則に基づいており、長期投資家が流動性を犠牲にできるなら活用できる余地がある。第3に、モメンタムは取引コストと急落リスクを十分に考慮しない限り、個人投資家が単独で活用するのは困難だ。
「忍耐は必要であり、戦略は何年も何十年も空回りした後で再び威力を発揮することがある」という著者の言葉は、ファクター投資を追求する投資家への正直な警告だ。最終的な結論は全章を読み終えてから出したい。
それでは。
※本記事は刊行時の記述と、著者自身による修正履歴の確認に基づいています。将来の投資環境についての記述は個人の見解であり、予測を保証するものではありません。
【免責事項】本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資は元本割れのリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。


