『株式投資 第6版』第8章を解体:金利と株価の嘘を見抜き2050年を生き残る投資戦略

デスクの上に置かれた防災ヘルメットと『SURVIVAL INVESTING』というタイトルの分厚い投資本。背景には株価チャートが表示されたモニターがあり、震災後の生活を守る「資産防災」のイメージを表現している。 資産防災

【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資商品・投資行動を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴い、元本割れの可能性があります。投資判断はご自身の責任において行ってください。

ジェレミー・シーゲル著『株式投資(Stocks for the Long Run)』第6版 第8章のテーマは「金利と株価」だ。過去数十年にわたる実質金利の持続的な低下は何によって引き起こされたのか。そして金利と株価の間には本当に単純な関係があるのか。本稿では原文に忠実に整理したうえで、これまでの評価軸に沿って検証する。


【抽出】第6版 第8章の核心的ロジック

A. 実質金利の持続的低下という出発点

著者はまず過去数十年で最も驚くべき展開の一つとして実質金利の持続的かつ急激な低下を示す。20世紀末に2〜4.5%だった先進国の10年物国債の実質利回りは、2021年にはマイナス水準まで低下した。これは米国だけでなく、オーストラリア・カナダ・欧州・英国を含む先進国全体で起きている現象だ。

名目金利の低下はインフレ率の低下で説明できるが、インフレ調整後の実質金利もこれだけ大きく低下した理由は何か。著者はここに本章の問いを置いている。

B. 実質金利の決定要因:中央銀行ではなく実体経済

著者の中心的な主張は明確だ。「実質金利の持続的な低下は中央銀行の金融緩和政策によるものだという説明は大部分が間違っている」。中央銀行は短期市場金利の設定では重要な役割を果たすが、長期の実質金利の最大の決定要因は金融政策ではなく実体経済の要因だとする。

この金利の基本理論は1世紀以上前にオーストリアのオイゲン・フォン・ベーム=バヴェルク、スウェーデンのクヌート・ヴィクセル、米国のアーヴィング・フィッシャーによって確立されたもので、実質金利は主に①経済成長、②時間選好、③リスクに影響されるとされる。

C. 経済成長の鈍化

経済成長は人口増加率・労働力人口比率・労働生産性の3要素で構成される。著者はこれらがいずれも低下傾向にあることをデータで示している。

出生率の低下:アフリカを除いて世界の出生率は人口減少を防ぐために必要な人口置換水準(2.1)を下回った。米国でさえ2020年7月〜2021年7月の年間人口増加はわずか39万3000人で、過去100年超で最少だった。中国は1979年の1人っ子政策以降出生率が急落し、規制緩和後も人口置換水準を下回ったままだ。インドの出生率は1960年に約6だったが、全国家庭保健調査(NFHS)では2021年時点で全国2.0・都市部1.6まで低下している。

人口高齢化:高齢化率(65歳以上の割合)はすべての国で上昇しており今後30年も上昇が続く。原文の表8-1(国連『世界人口推計』より)が示す主要国の高齢化率の推移は以下のとおりだ。

1950年2020年2050年予測
米国8%15%22%
ドイツ10%22%30%
イタリア8%22%37%
日本5%29%37%
中国4%10%26%
韓国3%15%38%

高齢化率の最も急激な上昇はアジアで起きている。1人っ子政策の影響で中国の高齢化率は2050年に26%まで上昇し米国を大きく上回ると予想される。1950年に最も低かった韓国は2050年に38%と表8-1の国の中で最高になると予想されている。

生産性の伸び悩み:原文の表8-2によると、米国の生産性上昇率は2000〜2010年の2.2%から2010〜2020年には0.9%へと大きく低下した。G7・ユーロ圏・OECD加盟国も同様に2010〜2020年代の生産性伸び率は1.0〜1.2%に鈍化している。著者はこの間にテクノロジーが飛躍的に発展したにもかかわらず労働時間当たり生産性の伸びが加速しなかった点を指摘している。

1人当たりGDP成長率の鈍化:原文の表8-3が示すとおり、1人当たりGDP成長率は先進国で顕著に鈍化した。米国は1970〜2000年の2.21%から2000〜2020年には0.92%へ、ユーロ圏は2.32%から0.53%へ、日本は2.70%から0.45%へと急落している。中国とインドは1970〜2010年に力強い成長を遂げたが2010〜2020年は両国とも成長が鈍化している(中国:9.92%→6.33%、インド:5.09%→3.75%)。

著者は経済成長の鈍化にはメリットもあると述べている。天然資源への負荷の低減、退職後の期間の長期化や労働時間の短縮による余暇の増加などだ。GDPに計上されない余暇そのものも含めれば経済厚生(エコノミックウェルフェア)はGDP成長率より速く増加している可能性があると指摘している。

D. 時間選好とリスク回避

時間選好とは、同じ量を消費するなら将来より今日消費することを好むという心理的特性だ。今日の消費を延期させるには将来より多くの消費を提供する必要があり、これが金利の基礎となる。ただし著者はこの変数は測定が困難で、どちらか一方向に動く傾向を示す証拠はないとしている。

リスク回避については、①投資家のリスク行動の変化と②債券のリスク特性の変化の2点が金利に影響すると著者は述べている。高齢化が進むと投資家のポートフォリオはより保守的になり債券比率が上昇する。高齢の投資家は労働所得を増やして損失を相殺する機会が減るため保守性が強まる。これが債券需要を高め実質金利を低下させる要因となる。

E. 債券のヘッジ特性:著者が「最も強力な要因」と位置づけるもの

著者が「ほとんど無視されているが最も強力な要因の1つ」として強調するのが、債券とリスク資産の間で負の相関が高まっていることだ。ヘッジ資産とは他のリスク資産と反対方向に動く資産で、株式が下落すると価格が上昇し、株式が上昇すると価格が下落する。こうした逆相関の資産はポートフォリオ全体のボラティリティを相殺するため価値があり、高値で取引され期待リターンが低下する。ヘッジ資産が特に効果的であればその期待リターンはゼロかマイナスになることさえある。

著者はこのヘッジ資産を「ネガティブ・ベータ資産」と呼ぶ。1970〜80年代は株式と債券がほぼ無相関から正の相関(共倒れ)だったが、1990年以降は負の相関(株安・債券高)が定着した。1970〜80年代に相関が高まった原因はOPECによる石油禁輸などの供給ショックで、インフレ上昇が債券の実質価値を下げると同時に実体経済にも打撃を与えた。1990年代以降は新興国市場危機・2008年金融危機などデフレ的なショックが主となり、国債が優れたヘッジを提供するようになった。

ジョン・キャンベルの研究では「相関のピークからボトムへの変化は、株式のリスクプレミアムが5%の場合、長期金利の3パーセントポイントの低下を意味する」と結論付けられている。2018〜2022年にFRBの副議長を務めたリチャード・クラリダは2019年11月のチューリッヒでの国際金融カンファレンスで長期債のヘッジ特性がその利回り低下の大きな要因であると主張し、金融危機時に30年物国債が38%上昇した一方でS&P500が37%急落したことに言及した。

F. 中央銀行の役割:限定的だが無視できない

著者は中央銀行の役割を完全に否定はしていない。中央銀行は銀行システムの準備金の供給をコントロールするか準備金に支払われる金利を設定することで短期の実質金利を設定できる。この能力は支出や経済に影響を与える。

しかしより長い期間では、FRBの実質金利に対する影響力ははるかに弱い。クヌート・ヴィクセルが「自然利子率」と名付けた、生産性・時間・リスク選好によって決まる金利が基準となる。中央銀行が実質金利を自然利子率以下に長期間維持しようとすればインフレを引き起こし、自然利子率以上に保とうとすればデフレと経済収縮が起こる。著者は「2022年初頭のFRBの引き締めによって10年物TIPS利回りは大きく上昇したが、その急上昇は長続きしないと私は考えている」という自身の見解を示している。

G. 金利と株価の「複雑な方程式」

著者は金利と株価の関係が「見た目よりはるかに複雑」であると結論づけている。金利が低下し他の変数が変化しなければ株価が上昇するのは事実だが、現実には他の変数も変化する。

  • 金利低下が成長率の低下によるものであれば、将来キャッシュフローも減少し株価への影響は曖昧になる。
  • 金利低下がリスク回避の高まりによるものであれば、株価が上昇するためにはリスク回避の高まりを無リスク資産の金利低下で相殺する必要がある。
  • 金利低下が債券のヘッジ特性の向上によるものであれば、債券需要が高まり金利は低下するが、株式需要の増加は伴わないかもしれない。

短期的には中央銀行による金利低下は一般的に株式にとってプラスに働く。金融緩和は景気刺激となり企業の借入コストを低下させる。ただし緩和が過剰になってインフレを引き起こし中央銀行が将来引き締めを余儀なくされるような事態でない場合に限られる。


【検証】第4版(2005年)から第6版(2025年)への差分分析

【的中・維持】理論の骨格が20年後も保たれたもの

  • 人口動態による成長鈍化と金利低下の予測:少子高齢化・先進国の成長鈍化が実質金利を押し下げるという論理は第4版でも示されていた。表8-1の日本の高齢化率(2020年29%)、中国の1人っ子政策のツケによる急速な老いなど、第4版時点での警告は概ね現実になった。
  • 「中央銀行万能論」の否定:長期の実質金利は金融政策ではなく実体経済によって決まるという主張は、この20年間の低金利の経緯によって支持された。各国中央銀行が金融緩和を続けても、自然利子率が低下しているため実質金利は低位にとどまり続けた。

【修正・追記】予測とのズレが生じ、説明が更新されたもの

  • 実質金利のマイナス化という想定外の事態:第4版時点では実質金利が長期にわたってマイナスに沈むという異常事態は想定されていなかった。第6版では「債券がネガティブ・ベータ資産(ヘッジ資産)になったため投資家が低いリターンを受け入れるようになった」というキャンベルらの研究を追加し、マイナス金利の説明を補強している。
  • 2022年の金利急上昇に対する著者の見解の追加:第6版では2022年初頭のFRBの引き締めによる実質金利急上昇に触れ、「その急上昇は長続きしないと私は考えている」という著者自身の見解が加えられている。これは第4版には存在しない第6版特有の記述だ。
  • 1人当たりGDP成長率の具体的な鈍化データの追加:表8-3(1970年以降の1人当たりGDP成長率)は第6版で新たに提示されたデータであり、先進国の成長鈍化の深刻さをより具体的に示している。

【峻別】経済的必然 vs 時代的偶然

経済的必然(2050年でも再現可能性が相対的に高いもの)

  • 自然利子率の決定メカニズム:人口が減り生産性が伸び悩めば資本需要が減少し金利が低下するという需給の論理は基本的な経済原理だ。2050年に向けて世界がさらに高齢化するなら、構造的な低金利圧力は続く可能性がある。
  • 金利と株価の「複雑な方程式」:金利低下の原因によって株価への影響が変わるという著者の整理は、DCFの数学的構造から導かれる論理的帰結だ。「低金利=株高」という単純図式が成立しない場合があることは2050年でも有効な視点だ。
  • 中央銀行は長期の実質金利をコントロールできないという事実:ヴィクセルの自然利子率の概念は1世紀以上前から確立されており、中央銀行が自然利子率から大きく乖離した金利を長期間維持しようとすればインフレかデフレを引き起こすという論理は普遍的だ。

時代的偶然(特定の条件が重なった可能性があるもの)

  • 「債券=最強のヘッジ資産」という1990年以降の前提:1990〜2020年の30年間に株式と債券が負の相関を示したのは、この時代が主にデフレ的ショック(アジア通貨危機・リーマンショック・コロナ禍)に支配されていたためだ。1970〜80年代のスタグフレーション期には株式と債券は正の相関(共倒れ)だった。著者自身も「供給ショックがインフレを引き起こす環境では相関が変化する」と認めており、債券のヘッジ特性は条件依存だ。
  • 米国の人口動態の相対的優位:表8-1が示す通り2050年の米国の高齢化率22%は韓国(38%)・イタリア(37%)・日本(37%)より低い。過去には移民流入が米国の人口を補強してきたが、政治的分断や移民政策の変化によってこの優位性が維持されるかは条件次第だ。

【批判】2050年への死角

  • 供給ショック型インフレが定着した場合の債券ヘッジ特性の崩壊:著者が「最も強力な要因」として強調する債券のネガティブ・ベータは、デフレ的ショックの時代に機能したものだ。米中対立・サプライチェーンの分断・脱炭素コストが重なる場合、1970〜80年代のオイルショック期と同様に株式と債券が共倒れするシナリオは排除できない。原文の図8-3が示すように、株債相関は1970〜80年代に大きくプラスに転じた前例がある。
  • 「生産性が伸びないから低金利」という前提が生成AIで覆る可能性:著者は表8-2でテクノロジーが発展したにもかかわらず生産性が上がっていない事実を示し、これが低金利継続の根拠の一つとしている。しかし生成AIやロボティクスが真に社会実装され生産性が爆発的に向上した場合、企業の資本需要が再燃し自然利子率が上昇する可能性がある。著者の「低成長・低金利」を前提とするシナリオは、生産性革命によって根底から覆りうる。
  • 「2022年の金利上昇は長続きしない」という著者の見解の検証:著者は第6版で「2022年のTIPS利回り急上昇は長続きしないと考えている」と述べている。これは著者個人の見解として原文に明記されているが、2050年を見据えた投資家にとっては「長続きしないかどうか」を自分で判断する必要がある。自然利子率の上昇要因(生産性向上・人口増加の回復)が顕在化すれば、著者の見立てが外れる可能性もある。

【評価】第8章の評価軸

評価論点判断の根拠
【信】Core Theory長期の実質金利は中央銀行の金融政策ではなく実体経済(人口動態・生産性・リスク選好)によって決まるという原則ヴィクセルの自然利子率の概念に基づく論理であり、1世紀以上にわたって確立されている。FRBの発言に一喜一憂するのではなく人口動態と生産性のデータを重視するという視点は2050年でも有効だ。
【疑】Variable「低金利環境では高いPERが正当化される」という含意著者自身が「金利低下の原因によって株価への影響は変わる」と認めている。成長鈍化が原因の低金利では将来キャッシュフローも減少するため、低金利を根拠に高バリュエーションを正当化することには条件がある。
【棄】Bias「米国長期債は常に優れたヘッジ資産」という前提1990〜2020年の負の相関はデフレ的ショックが支配した時代の産物だ。1970〜80年代のスタグフレーション期には株債が正の相関を示した前例があり、供給ショック型インフレが定着した場合にはこの前提は成立しない。

まとめ

本に記述された事実と変遷

第8章の核心は「実質金利の持続的低下は中央銀行ではなく実体経済の要因によるものだ」という主張と、「金利と株価の間に単純な関係はなく、金利低下の原因を理解することが重要だ」という結論の2本柱だ。

数値の確認として、20世紀末に2〜4.5%だった先進国の実質金利が2021年にはマイナス水準へ低下。米国の1人当たりGDP成長率は1970〜2000年の2.21%から2000〜2020年には0.92%へ急落。米国の生産性上昇率は2000〜2010年の2.2%から2010〜2020年には0.9%へ低下。日本の高齢化率は2020年時点で29%、2050年予測は37%。韓国の2050年予測は38%でこの表の最高値。金融危機時に30年物国債が38%上昇した一方でS&P500は37%急落した(クラリダの発言より)。

将来への持論と方針

「中央銀行は長期の実質金利をコントロールできない」という著者の主張は信じてよい。FRBの声明に反応して売買するのではなく、長期的な人口動態と生産性のデータを注視する姿勢が2050年でも有効だ。

一方で「債券のヘッジ特性が永続する」という前提には慎重だ。著者が「最も強力な要因」と位置づける負の株債相関は、1990〜2020年の特定の時代的条件(デフレ的ショックの連続)に依存している。2022年に米国で株と債券が同時に大きく下落したことは、この前提が条件依存であることを改めて示した。

高配当株を軸に据える方針は、こうした不確実な金利環境でも実際のキャッシュフロー(配当収入)を確保するという観点から合理的だと考えている。金利環境が変化しても、企業が実際に生み出す利益と配当というファンダメンタルズへの立ち返りが、長期的な資産防衛の基礎になると考えている。

最終的な結論は全章を読み終えてから出したい。

それでは。

※本記事は刊行時の記述と、著者自身による修正履歴の確認に基づいています。将来の投資環境についての記述は個人の見解であり、予測を保証するものではありません。

【免責事項】本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資は元本割れのリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。

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