【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資商品・投資行動を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴い、元本割れの可能性があります。投資判断はご自身の責任において行ってください。
ジェレミー・シーゲル著『株式投資(Stocks for the Long Run)』第6版 第4章のテーマは「グローバル投資」だ。1984年にジョン・テンプルトンが「国際分散投資はとてつもない成長産業だ」と述べてから約40年。その間に日本バブルの崩壊、新興国ブームと失速、米国IT株の独走という3つの大きな波が来た。著者はこの歴史を振り返りながら、「それでも国際分散は必要だ」という結論を導いている。本稿ではその論理を抽出し、原文に忠実に整理したうえで、前回までの記事で設定した評価軸に沿って検証する。
【抽出】第6版 第4章の核心的ロジック
A. 歴史が示す「バブルと平均回帰」の繰り返し
著者がこの章で最初に示すのは、日本バブルの事例だ。1970年代後半から1980年代にかけて、日本株の年平均リターンは米国を10パーセントポイント以上上回り、他のすべての国を凌駕した。日経平均は1970年の約2000円から1989年末に約3万9000円まで上昇し、この間に円も対ドルで約3倍に上昇した。米ドルベースの投資家が得たリターンは米国株の約12倍に相当したとされる。
その結果、1989年末には日本の株式時価総額が世界シェア40%に達し、米国(29%)を上回った。しかしバブル崩壊後、日経平均は2008年に7000円台まで下落し、ピーク比で80%超の下落となった。2020年時点の日本の世界シェアは約7%まで縮小し、米国は再び世界の半分超を回復した。
著者が指摘するのは「平均回帰が優勢である」という点だ。バブル崩壊の予兆として、1989年時点でNTTのPERが300倍超、日本株全体がPER100倍以上で取引されており、これは2000年の米国ITバブル時の3倍以上という水準だったと述べている。
次に、2001年のゴールドマン・サックスによるBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)レポートに端を発した新興国ブームを取り上げる。BRICs構成銘柄の指数は2003年初頭から2007年末にかけて約600%上昇し、同期間のS&P500の上昇率(約60%)を大きく上回った。しかしその後は失速し、2021年末時点でBRICs指数は14年前の最高値を下回り、2003年からの全期間を通じたリターンはS&P500と同等かそれを下回る水準にとどまった。著者は「平均回帰が再び優勢になった」と結論づけている。
B. 2021年時点の世界株式市場の構成
2021年12月時点の世界株式時価総額は約70兆ドルで、米国のシェアは61.2%に達する。米国以外の先進国市場(EAFE)は24.6%、カナダを加えた先進国全体で88.7%となる。新興国は11.2%、フロンティア市場は0.1%だ。
新興国市場(MSCI新興国指数)の上位5カ国は中国(32%)・台湾(16%)・韓国とインド(各12%)・ブラジル(4%)で、この5カ国で新興国全体の78%を占める。
C. 国際投資のリターンとリスク(数値の確認)
原文の表4-1から、1970〜2021年の米ドル建てリターンを確認する。米国は年率10.83%、EAFEは9.36%で、米国がやや上回る。1988〜2021年に絞ると、米国11.61%、EAFE6.03%と差が広がる一方、新興国は10.50%と米国に近い水準だ。
リスク(標準偏差)は米国15.25%に対し、EAFEは16.75%、新興国は22.20%と高め。米国とEAFEの相関係数は0.648、日本との相関は0.386と相対的に低い。著者はこの「不完全な相関関係」こそが国際分散の意義だと述べている。
D. 国際分散投資を維持する3つの理由
著者は「米国株だけでいい」という主張に対し、3点から反論している。
- 「外国企業」の定義の恣意性:国別指数は本社所在地のみで分類されるため、製造・販売の実態を反映していない。著者は以前から「本社がどこにあるかではなく、どこで製造・販売するかで分類すべき」と主張してきたが、業界標準にはなっていない。グローバル化が進めば本社の所在地の意味は薄れ、米国株だけのポートフォリオは「十分な包摂性を持たない可能性がある」と警告している。
- 輸入企業への投資機会:2021年の米国への輸入総額は約3兆5000億ドルに上り、米国人が購入する財・サービスの多くは海外企業が生産している。S&P500の海外売上比率は2021年に41%に達したが、著者は「米国は依然として輸出より輸入が多い」として、生産企業を保有しない論拠にはならないとしている。
- 分散による真のリスク低減:各市場のリターンは同調しないことが多く、図4-4(10年移動平均)でも米国・EAFE・新興国のリターンがしばしば逆方向に動くことが示されている。この非同調性がポートフォリオ全体のボラティリティを下げる。
E. 為替リスクのヘッジについて
為替リスクは国内リスクに追加されるリスクであり、ヘッジが有効な場面もある。ただし著者は「長期的には為替ヘッジは重要ではないかもしれない」という立場をとる。長期では為替レートは主に購買力平価(国間のインフレ差)で決まり、株式はインフレに連動する実物資産への請求権であるため、為替の下落分は株式リターンで補われる傾向があるという。
ただし短期では有効な場面がある。原文では日本の2012年後半(アベノミクス期の円安)に為替ヘッジ付きで日本株を保有した投資家がヘッジなしを大きく上回った事例を挙げている。また数値として、1988〜2021年のMSCI EAFEのリターンは無ヘッジで年率5.0%だったのに対し、ドルヘッジありでは5.4%に上昇し、標準偏差も16.7%から14.7%に低下したと示している。
一方で、英国ポンドの100年以上にわたる下落(4.80ドル→1.60ドル程度)をヘッジするコストは下落幅を上回り、ヘッジしなかった方が高リターンだったという逆の事例も挙げている。ヘッジの効果は一律ではない。
F. セクター構成の変化と米国IT偏重
2013年から2021年の8年間で、世界のセクター構成は大きく変化した。米国ではITセクターのウエイトが18.0%から29.2%に拡大し、通信サービスも2.8%から10.2%に上昇(アルファベット・メタ等が2018年に移行したことが主因)。著者は「2021年末の米国株価値の50%以上がIT関連」と述べている。一方で、エネルギーは10.6%から2.7%、金融は16.7%から10.7%に縮小した。
米国以外ではIT偏重の度合いは低い。著者は「これが米国の株式価値が世界を上回っている主な理由」としながらも、「そのダイナミックな成長の対価は安くない」と指摘し、2022年予想PERとして一部企業の高バリュエーション(アマゾン69倍、テスラ90倍など)を例示している。
【検証】第4版(2005年)から第6版(2025年)への差分分析
【的中・維持】理論の骨格が20年後も保たれたもの
- 平均回帰の繰り返し:日本バブルに続き、BRICsブームも2007年以降は失速してS&P500と同等かそれ以下に収束した。「異常なバリュエーションは必ず平均に戻る」という骨格は、この20年間に2度確認された。
- 分散効果の論理的正当性:各市場のリターンが完全に相関しない限り、組み合わせることでリスクを下げられるという数学的原理は変わらない。1970〜2021年の米国とEAFEの相関係数0.648という不完全な相関は、この論理を支持している。
【修正・追記】予測とのズレが生じ、説明が更新されたもの
- 「国際分散でリターンを高める」から「リスクを下げる」への重心移動:第4版時点では国際分散は「高リターンを求める手段」としての側面が強かったが、第6版では「米国市場からのリスク分散」が主な理由として前面に出ている。2010年代に米国株が他国を大幅に凌駕した事実を受けた修正と見られる。
- 「外国企業」の定義問題の深化:第6版では、本社所在地ではなく製造・販売拠点で分類すべきという著者の以前からの主張を改めて強調しつつ、「グローバル化が進めばいずれ本社の意味はなくなる」という展望を加えている。ただしこれは第4版でも指摘していた論点の延長であり、実現には至っていない。
- BRICsの評価の修正:第4版時点(2005年)はBRICsブームの初期段階にあたり、新興国への期待は非常に高かった。第6版では2007年以降の失速を踏まえ、「平均回帰が優勢」という結論に落ち着いている。
【峻別】経済的必然 vs 時代的偶然
経済的必然(2050年でも再現可能性が相対的に高いもの)
- 異常なバリュエーションの平均回帰:日本のPER100倍超、NTTのPER300倍超という水準が崩壊したこと、BRICsの急騰が失速したことは、「高すぎるバリュエーションは持続しない」という資本主義の基本的な性質を示している。これは2050年でも変わらない普遍的な原理と見てよい。
- 不完全な相関による分散効果の論理:各国市場が完全に連動しない限り、組み合わせることでボラティリティを下げられるという数学的原理は、市場構造が変わらない限り有効だ。
- 長期での為替ヘッジ不要論:長期では購買力平価が為替を決定し、株式はインフレ連動の実物資産であるため、ヘッジなしでも実質リターンは保たれやすいという論理は、通貨制度が大きく変わらない限り成立しうる。
時代的偶然(特定の条件が重なった可能性があるもの)
- 米国IT企業の独占的優位:2010年代以降の米国の圧倒的なアウトパフォームは、英語圏のネットワーク効果・規制環境の緩さ・低金利によるバリュエーション拡大が重なった結果だ。著者は「米国株だけへの投資はリスクが高い」としているが、一方でIT企業の高成長を「是認」する姿勢も見せており、この矛盾は2050年の世界では試されることになる。
- 1988〜2021年のEAFEの低迷(年率6.03%):この期間の日本の長期低迷(1988〜2021年で年率2.13%)がEAFE全体を大幅に引き下げており、欧州全体でも9.00%と米国(11.61%)に劣後している。これが「国際分散は不要」論の根拠になりがちだが、この期間自体が米国一強という特殊な条件下にあった可能性がある。
- 新興国の「期待外れ」:BRICs構想が示した「2050年にはG6を超える」という予測は、データが示す通り実現していない。高成長のGDPが必ずしも株式リターンに直結しないことが、この20年間で改めて確認された。
【批判】2050年への死角
- 「世界分散が最低リスクで最高リターン」という結論の強さ:著者の最終結論は「世界各地に分散したポートフォリオを持つ投資家だけが、最も低いリスクで最高のリターンを得ることができる」というものだ。しかしこれは過去データに基づく主張であり、2050年に向けた地政学的断絶(米中デカップリング、制裁による特定市場への投資制限など)が深まれば、「分散」自体が物理的に難しくなるリスクがある。ロシア株が2022年に制裁により事実上取引不能になった事例は、この懸念を現実のものとして示している。
- 「本社所在地の恣意性」への対処が進んでいない:著者は20年以上「製造・販売拠点で分類すべき」と主張しているが、業界標準は依然として本社所在地ベースだ。この点が解消されない限り、「国際分散している」という認識と実態のズレは続く。
- 高バリュエーションのIT企業集中リスク:著者自身が2022年予想PERとして高い数値を例示し「転落する可能性が高い」と述べているにもかかわらず、国際分散の理由としてセクター多様性を強調する議論は、米国IT偏重への批判として十分に深掘りされていない。2050年に向けて、この集中リスクをどう扱うかは未解決の問題だ。
- 新興国の「GDP成長≠株式リターン」問題:BRICsの事例が示したように、高いGDP成長率は必ずしも株式リターンに直結しない。2050年にインド・ASEANが経済規模を拡大したとしても、それが株式リターンに反映されるかは別問題であり、著者の国際分散論の根拠としては弱い部分が残る。
【評価】第4章の評価軸
| 評価 | 論点 | 判断の根拠 |
|---|---|---|
| 【信】Core Theory | 異常なバリュエーションは平均に回帰するという原理、および不完全な相関による分散効果の数学的論理 | 日本バブル・BRICsの両事例で繰り返し確認された。資本主義の基本的性質として2050年でも有効と見る。 |
| 【疑】Variable | 「世界分散が最低リスクで最高リターン」という著者の結論 | 論理としては正しいが、地政学的断絶・制裁・市場閉鎖といった条件変化によって「分散」が機能しなくなるシナリオへの対処が不十分。ロシアの事例は既に現実化している。 |
| 【棄】Bias | 「GDP成長率の高い新興国への投資が報われる」という期待 | BRICsの20年間のデータが示すように、GDP成長と株式リターンは直結しない。高成長国への期待は繰り返し裏切られており、この前提に基づく新興国配分の拡大は再現性が低い。 |
まとめ
本に記述された事実と変遷
第4章の骨格は「国際分散は必要だが、高成長への期待で投資すると裏切られる」というものだ。日本バブルとBRICsという2つの事例が、20年間のデータ更新によって「平均回帰の法則が繰り返された」ことを実証する形で加筆された。一方、著者が20年以上主張してきた「本社所在地ではなく製造・販売拠点で分類すべき」という提言は、依然として業界標準にはなっていない。
数値の確認として、1970〜2021年の米ドル建て年率リターンは米国10.83%・EAFE9.36%。1988〜2021年に絞ると米国11.61%・EAFE6.03%・新興国10.50%。日本単体では1988〜2021年で年率2.13%と長期低迷が鮮明だ。
将来への持論と方針
「異常なバリュエーションは平均に回帰する」という骨格は信じてよいと考える。日本のPER100倍超が崩壊し、BRICsの急騰が失速したことは、2050年においても同じ原理が働くことを示唆している。
一方で、著者の「世界分散が最低リスクで最高リターン」という結論には、地政学的断絶リスクという死角がある。ロシア市場が2022年に制裁で事実上消滅した事例は、「分散できている」という前提が突然崩れうることを示している。分散の形骸化リスクを意識した上で、地域・セクターを組み合わせる必要がある。
また、「GDP成長率の高い新興国への期待」は【棄】と判断する。BRICsの20年が示すように、成長期待が株式リターンに反映されるとは限らず、むしろ期待が高いほどバリュエーションが先行して実際のリターンが抑制される傾向がある。
高配当株を軸に据えながら、国際分散は「リターン向上のため」ではなく「バリュエーション集中リスクの分散」として位置づけることが、2050年を見据えた現実的な方針だと考えている。
最終的な結論は全章を読み終えてから出したい。
それでは。
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