【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資商品・投資行動を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴い、元本割れの可能性があります。投資判断はご自身の責任において行ってください。
ジェレミー・シーゲル著『株式投資(Stocks for the Long Run)』第6版 第28章のテーマは「長期成長のためのポートフォリオ構築」だ。本書の最終章にあたる本章は、前章までの実証データと理論を7つの実践的な原則に集約する。ケインズの「長期的には、われわれは皆死んでしまう」という言葉と、バフェットの「私の好きな保有期間は永遠である」という言葉を冒頭に並べて、著者は長期投資の本質に迫る。本稿では原文に忠実に整理したうえで、これまでの評価軸に沿って検証する。
【抽出】第6版 第28章の核心的ロジック
A. 投資の実践的な困難さ
著者はまず、長期投資が理論的には容易だが現実には困難だという矛盾を指摘する。何の予測能力も必要とせず、分散された株式ポートフォリオを保有し続けるだけというのは、理論的には容易に思える。しかし、さまざまな感情に影響されるので実行するのは容易ではない。
選択的記憶も間違った方向へ押し進める。「あの株が上昇することはわかっていた!買っていれば大儲けできたはずだ!」という後知恵は過去の経験を歪曲し、直観に従うよう促して同じゲームをしている他の投資家を出し抜こうとさせる。多くの投資家が市場に打ち勝とうとして、リスクをとりすぎ、取引コストが高くなり、感情に流された結果、ただ市場にいるだけで達成できるリターンより、はるかに低いリターンしか得られないという悲惨な結果に陥る。
B. 投資を成功させる7つの原則
著者は本書の研究から導かれた7つの原則を示している。
原則1:将来の株式リターンの見通し
過去2世紀のインフレ調整後の株式リターンは6〜7%で、PERは平均約15倍だった。しかし将来の実質リターンはもっと低く、インフレ調整後で年率5%程度になる可能性が高い。取引コストが低下し極めて低いコストでポートフォリオを分散できることは株式のバリュエーションが高くなることを意味する。PER20倍はインフレ調整後の株式リターン5%と整合する。
原則2:株式はインフレに対する優れた長期ヘッジ
株式は工場・設備・著作権・商標・知的財産といった実物資本に対する債権だ。米国が経験したほぼすべてのインフレは第二次世界大戦後に起こったが、株式の実質リターンにマイナスの影響はなかった。ただし短期的には、中央銀行がインフレ抑制のために金融を引き締めるため、株式リターンは平均を下回る傾向がある。
原則3:投資期間が長いほど株式の保有比率を高めるべき
期間が長くなるにつれて、株式の平均リターンの変動幅は小さくなり、債券リターンの変動幅は大きくなる。株式リターンには平均回帰性があり、一方向のショックが多くの場合、反対方向のショックによって相殺されて長期的なリターンが安定する。債券は長期的にはインフレの不確実性に大きく左右される。長期的な視野を持つ投資家はポートフォリオの株式比率を高め、債券比率を下げるべきだ。
原則4:低コストの国際分散した株式インデックスファンドへの投資
第27章で示した通り、広範囲な銘柄を組み入れた指数のリターンは過去半世紀の間ほとんどのアクティブ運用のファンドを上回っていた。インデックスファンドへの投資で市場と同じリターンを毎年積み重ねていけば、長期的にはかなり高いリターンを達成できる。
原則5:株式ポートフォリオの少なくとも3分の1を国際株に
現在、米国の株式は世界の株式資本のほぼ半分を占める。過去10年間、米国株は世界の他の市場をアウトパフォームしてきたが、2022年現在、米国は世界の主要市場のなかで最も株価のバリュエーションが高い市場だ。長期的には株価のバリュエーションレシオが低いほど優れたリターンが期待できる。高成長の国の銘柄は過大評価され投資リターンも良くないことが多い点にも注意が必要だ。
原則6:バリュー株のインデックスファンドやファンダメンタル加重平均インデックスファンドの活用
過去のリターンに基づくと、バリュー株(利益や配当といったファンダメンタルズに比べて株価が低い銘柄)はグロース株よりも高リターン低リスクだ。ただし2006年から2021年にかけてバリュー株はグロース株に対して過去約100年間で最悪のパフォーマンスを記録した。
著者は歴史的なサイクルを指摘している。1970年代半ばのニフティ・フィフティ・マニア、2000年のドットコム・バブル、そして2020〜2021年の大型グロース株の大暴騰など、グロース株は約25年の周期で割高になってきた。今回の大型ハイテク株を中心としたアウトパフォーマンスは2000年に比べて大型ハイテク株のバリュエーションがそれほど高くなく収益成長の裏付けもあることから、はるかに強い根拠がある。しかし株式市場の長い歴史を見れば、長期にわたって人気がない株式・セクター・国は将来のリターンが良くなることが多い。
原則7:感情に負けそうなら確固たるルールを確立すること
市場についてひどく不安に感じるときは落ち着いて、第1章と第2章をもう一度読み返してほしい、あるいは資産の実質リターンの220年間のグラフ(図1-1)だけでも確認してほしいと著者は述べる。強気相場のときに買い弱気相場のときに売ろうとする誘惑に抗うのは難しい。本書は株式の長期リターンを牽引する基本的な力を理解することで、長期的な視点に立ち続けるための教訓を提供する。
C. 計画の実行と投資アドバイザーの役割:3つの落とし穴
著者は「正しい戦略を知ることは、正しい投資戦略を実行することと同じではない」と述べ、多くの投資家が陥る3つの落とし穴を示している。
落とし穴1:「市場に勝とう」として頻繁に売買すること
12カ月のうちに株価が2倍か3倍になる銘柄が常に存在することを知っているので、堅調な過去の株式リターンだけでは満足しない。次世代の大企業をその揺籃期に買うことを夢見る。しかし取引コストとタイミングのまずさで利益を失い、リターンの悪化を招くことが多数の研究によって証明されている。
落とし穴2:「ホットなマネジャー」を持つミューチュアルファンドに乗り換えること
個別銘柄の選択で痛い目に遭った投資家は、より高いリターンを求めてミューチュアルファンドに向かう傾向がある。しかし「ついている(ホットな)マネジャー」は新しい戦略として「ホットな銘柄」に入れ替える。結果として、また市場平均リターンを下回るのだ。
落とし穴3:景気循環のタイミングを計ること
最も情報通の投資家がこの罠に陥ることがよくある。豊富な金融ニュースや情報・コメントに振り回されると、市場の意見から遠く離れていることが困難になる。衝動的に相場が下落しているときは恐怖に、相場が高騰しているときは強欲に屈することになる。ケインズが示したように「慣行に従わないで成功するよりも、慣行に従って失敗したほうがよいのである」という心理的圧力がある。「専門家」の助言に従って失敗するほうが、群衆から離れて失敗するより、はるかに受け入れやすいからだ。
著者は、必要なら専門の投資アドバイザーを求めることを推奨しているが、条件を付けている。「必ず本書で述べてきた分散と長期投資の基本原則に同意する専門の投資アドバイザーを選ぶこと」だ。
D. 結論
著者の最終的な言葉は本書の出発点に戻る。「株式は長期的に富を蓄積するのに最適な手法であるという本書の主張は、1994年に初版を出版したときと同じく、今日でも真実である」。株式市場は今や実質的に世界中のすべての国に存在し、世界の資本配分の背後にある牽引力であり、経済成長を根底から推進するエンジンだ。
【検証】第4版(2005年)から第6版(2025年)への差分分析
【4版(2005年)の状況】
「過去2世紀の実質株式リターン6〜7%、PER平均15倍が基準。
インデックス投資・国際分散・バリュー株という3つの柱は変わらない」
↓
【6版(2025年ベース)での現実】
将来の実質リターンを5%に引き下げた(バリュエーション上昇を理由に)。
PER20倍が新しい「均衡水準」として提示された。
2006〜2021年のバリュー株の長期不振という反証事例が加わった。
↓
【シーゲルの対応】
「将来の実質リターンは5%に引き下げるべきだが、株式の優位性は変わらない。
バリュー株の不振は約25年周期のサイクルの一部であり、
長期的なバリュー投資の優位性は変わらない」
| 評価軸 | 具体的象徴 | 4版から6版への変質と分析 |
|---|---|---|
| 【改善・的中】 | 将来の実質リターンを6〜7%から5%に引き下げ、PER20倍を新しい均衡水準として提示 | 第4版で6〜7%を想定していた将来のリターンを第6版で5%に修正したことは、バリュエーション上昇という現実を素直に認めた誠実な更新だ。PER20倍=実質リターン5%という整合性は理論的に明確だ。 |
| 【修正・誤認】 | 2006〜2021年のバリュー株不振という反証への対応 | 第4版ではバリュー株の優位性をより確信を持って述べていたが、第6版では「過去約100年間で最悪のパフォーマンス」という不都合な事実を正直に示しつつ「約25年周期のサイクル」という文脈で位置づけた。 |
【峻別】経済的必然 vs 時代的偶然
経済的必然(2050年でも再現可能性が相対的に高いもの)
- 「株式は実物資産としてインフレヘッジになる」という原則: 第24章でも確認された通り、株式価値の基礎となる工場・設備・知的財産は物価水準と共に上昇する。2050年でも変わらない原則だ。
- 「長期投資家は株式比率を高めるべき」という平均回帰性の利用: 株式リターンの平均回帰性は資本主義の価格形成メカニズムから導かれ、2050年でも基本的に変わらない。
- 「コストが低い分散投資がほとんどのアクティブ運用を上回る」という算術的必然: 第27章で詳しく示された通り、これは数学的な必然であり2050年でも変わらない。
時代的偶然(特定の条件が重なった可能性があるもの)
- 「バリュー株の約25年周期のサイクル」という著者の解釈: 3回の事例(1970年代・2000年・2020年代)からサイクルを導くのは統計的にサンプル数が少ない。2050年の環境でこのサイクルが再現するかどうかは不確実だ。
- 「米国株が世界の株式資本のほぼ半分を占める」という現状と国際分散の推奨: 2022年時点での米国株の高バリュエーションを前提にした推奨であり、2050年の市場環境によって大きく変わりうる。
【批判】2050年への死角
① 「将来の実質リターンは5%程度」という予測の根拠の脆弱性
著者は「PER20倍はインフレ調整後の株式リターン5%と整合する」と述べているが、これは株式リターンと益回り(1/PER)の関係を単純化した計算だ。実際の将来リターンは将来の利益成長率・配当政策・金利水準・地政学的リスクなど多くの変数に依存する。「5%程度」という予測は参考値として有用だが、投資判断の確固たる根拠としては脆弱だ。
② バリュー株の「約25年周期」という解釈の恣意性
著者は1970年代半ば・2000年・2020〜2021年というグロース株が割高になった3つの事例から「約25年の周期」を導いている。しかし3データポイントからサイクルを認定することは統計的に根拠が薄く、2050年の投資環境でバリュー株が再び優位になることへの「根拠」としては弱い。
【評価】第28章の評価軸
| 評価 | 論点 | 判断の根拠 |
|---|---|---|
| 【信】Core Theory | 「低コストの国際分散インデックスファンドへの長期投資が最もシンプルかつ有効な選択」という結論、および「株式は実物資産としてインフレヘッジになる」という原則 | 第27章のデータと本書全体の実証分析に裏付けられた結論で、2050年でも基本的に有効な原則だ。 |
| 【疑】Variable | 「将来の実質リターンは5%程度」という予測と「バリュー株の約25年周期のサイクル」という解釈 | どちらも著者の誠実な推定だが、前者は単純化した計算に依存し、後者は3データポイントから導いた解釈であり、確実性は低い。 |
| 【棄】Bias | 「市場に勝とうとする」「ホットなマネジャーを追う」「景気循環のタイミングを計る」という3つの落とし穴 | 著者が明確に「落とし穴」と断言しており、50年分のデータがこれらの行動の有害性を裏付けている。これらを合理的な投資戦略と考えることは棄却すべきだ。 |
まとめ
本に記述された事実と変遷
第28章の核心は「長期投資の原則は単純だが実行は困難だ。正しい戦略は知ることと実行することは同じではない。それでも、分散・低コスト・長期保有という原則に従えば、投資の落とし穴を回避して株式からすばらしい報酬を獲得することは誰にでも可能だ」という本書全体の結論の集約だ。
7つの原則の要点
- 原則1:将来の実質リターンはインフレ調整後で年率5%程度。PER20倍が新しい均衡水準(過去の平均PER15倍から上昇)
- 原則2:株式は実物資産としてインフレに対する優れた長期ヘッジ(短期的には例外あり)
- 原則3:投資期間が長いほど株式比率を高め債券比率を下げるべき(株式の平均回帰性と債券のインフレリスク)
- 原則4:低コストの国際分散インデックスファンドへの投資が基本
- 原則5:株式ポートフォリオの少なくとも3分の1を国際株に(米国株は2022年現在、世界の株式資本のほぼ半分を占め最もバリュエーションが高い市場)
- 原則6:バリュー株・ファンダメンタル加重平均インデックスファンドの活用(2006〜2021年のバリュー株は過去約100年間で最悪のパフォーマンスだったが、約25年周期のサイクルの一部として位置づけ)
- 原則7:感情に負けそうなら確固たるルールを確立し、220年間の実質リターンのグラフ(図1-1)を見返すこと
3つの落とし穴
- 落とし穴1:「市場に勝とう」として頻繁に売買すること→取引コストとタイミングのまずさでリターンが悪化
- 落とし穴2:「ホットなマネジャー」を持つミューチュアルファンドへの乗り換え→また市場平均を下回る結果になる
- 落とし穴3:景気循環のタイミングを計ること→恐怖と強欲という感情に支配され、最も情報通の投資家も陥りやすい
将来への持論と方針
本章は本書全体の結論として、以下の一文に集約される。「株式は長期的に富を蓄積するのに最適な手法であるという本書の主張は、1994年に初版を出版したときと同じく、今日でも真実である」。
著者が220年間の実質リターンのグラフ(図1-1)を「市場についてひどく不安に感じるときに見返してほしい」と述べる理由は、歴史が何度も繰り返してきた教訓にある。大恐慌・第二次世界大戦・石油ショック・IT バブル崩壊・リーマン・ショック・コロナ禍……あらゆる危機の後も、長期的な株式の実質リターンは6〜7%(将来は5%と修正されたが)という水準を維持してきた。
「正しい投資戦略は知的な挑戦であると同時に心理的な挑戦でもある」という著者の言葉は、本書全体を貫くメッセージだ。知識は第1歩に過ぎない。感情をコントロールし、落とし穴を回避し、長期的な視点を維持することが、投資家としての本当の能力だ。
本書全体を通じた著者の一貫したメッセージは以下の通りだ。株式は長期的に最も優れた資産クラスであり、低コストの国際分散インデックスファンドへの長期保有がほとんどの投資家にとって最良の戦略であり、心理的バイアスと売買コストが最大の敵だ。この結論は1994年の初版から変わっていない。
それでは。
※本記事は刊行時の記述と、著者自身による修正履歴の確認に基づいています。将来の投資環境についての記述は個人の見解であり、予測を保証するものではありません。
【免責事項】本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資は元本割れのリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。


