【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資商品・投資行動を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴い、元本割れの可能性があります。投資判断はご自身の責任において行ってください。
ジェレミー・シーゲル著『株式投資(Stocks for the Long Run)』第6版 第11章のテーマは「長期投資のための銘柄とは?」だ。成長率の高い企業が長期の高リターンをもたらさない理由、GDP成長率と株式リターンの逆説的な負の相関、そしてフィリップモリスという「GOAT」銘柄の秘密。本稿では原文に忠実に整理したうえで、これまでの評価軸に沿って検証する。
【抽出】第6版 第11章の核心的ロジック
A. 長期投資の本質:成長ではなく価格
著者は冒頭で長期投資の核心的な逆説を示す。短期的に市場に勝つには「成長性に優れた企業」か「他の投資家も買いに来ると見込まれる銘柄」を選ぶ戦略がある。しかし長期的な勝者になるためにはまったく異なる戦略が必要だ。
著者の主張は明快だ。「利益の高成長はしばしば過大評価につながり、長期的なアンダーパフォームをもたらす」。歴史が示すところによれば、長期投資家にとって最も重要な基準は「ファンダメンタルズと比較して合理的な価格を維持する株式をバイ&ホールドすること」であり、最も速く成長する企業を追い求めることではない。
B. スタンダード石油 vs IBM:成長と価格の逆説
著者はこの原則を1950年初頭に1万ドルを投資したという思考実験で示す。選択肢はスタンダード石油ニュージャージー(現エクソンモービル)とIBMだ。
原文の表11-1が示す通り、60年間のあらゆる成長指標でIBMはスタンダード石油を上回った。1株当たり売上高の成長率はIBMが10.59%、スタンダード石油が7.99%。1株当たり利益の成長率はIBMが11.26%、スタンダード石油が7.63%。1株当たり配当の成長率もIBMが9.73%、スタンダード石油が6.83%。さらにITセクターの時価総額占有率の変化率は3.43%に対しエネルギーはマイナス0.98%と、セクターとしてもIBMが属するIT優位だった。どのウォール街的指標を見ても、IBMが圧勝に見える。
しかし結果は逆だった。1949〜2010年の年率リターンはIBMが12.98%、スタンダード石油が14.48%で、スタンダード石油が勝利した。1万ドルを投資した場合、2010年時点でIBMは1500万ドル近く、スタンダード石油は3300万ドル以上となった。ちなみに時価総額加重平均インデックスファンドへの投資は500万ドル弱にとどまり、両社ともに市場を上回った。
著者はデータを2021年末まで11年延長した場合も確認している。2010年以降は両社ともにS&P500に大きく遅れをとったが、エクソンモービルへの投資はIBMに勝り続けており、「この石油会社は71年の間、依然として市場に勝っている」と著者は述べている。
なぜスタンダード石油が勝ったのか。答えはバリュエーションにある。表11-1によると、IBMの平均PERは22.48倍だったのに対しスタンダード石油は12.92倍(IBMの約半分)。IBMの平均配当利回りは2.17%に対しスタンダード石油は4.21%と2ポイント以上高かった。この差により、IBMの投資家は当初の持ち株数の3.63倍にしか株数を積み上げられなかったのに対し、スタンダード石油の配当を再投資した投資家は11.87倍まで株数を積み上げた。スタンダード石油の株価上昇率(9.18%)はIBMの株価上昇率(10.66%)をほぼ2ポイント近く下回ったが、高い配当利回りによって長期保有者に対するトータルリターンはスタンダード石油が勝った。
C. GDP成長率と株式リターンは負の相関
著者は個別株の事例を国・地域の比較にも適用できることを示す。「B国のGDPがA国より速く成長するとしたら、どちらに投資すべきか」という問いに対し、大多数の人はB国と答えるが、それは間違いだと著者は断言する。
原文の図11-2は1900〜2020年の21カ国について株式の実質トータルリターンと1人当たり実質GDP成長率を示したものだ。その結論は「GDP成長率と株式の実質トータルリターンは平均して負の相関関係である」というものだ。著者は1970〜1997年に先進17カ国ではマイナス0.32、新興18カ国ではマイナス0.03という相関係数を示している。この負の相関は後にジェイ・リッターやディムソン・マーシュ・ストーントンによってより長い期間についても確認されている。なお著者はこの一見不可解な結果を『株式投資』第2版で初めて報告したと述べている。
具体例として著者は2つを挙げている。第1に、1971〜2020年の先進国(都市国家のシンガポールと香港を除く)の中でリターン最高はデンマークで年率13.5%と米国を3ポイント近く上回るが、デンマークのGDP成長率はドイツと並んで2番目に低く米国に1ポイント近い差をつけられている。第2に、中国は1992〜2020年に年平均GDP成長率9.3%という圧倒的な成長を記録したが、株式の年率リターンは2.7%にすぎず新興18カ国中で最低水準にある。一方、新興国でこの期間に最も株式リターンが高かったペルーとブラジルはGDP成長率では最下位に近い。
この結果の理由として著者は3点を挙げている。①成長のために多くの株式発行が必要となり既存株が希薄化される。②生産性向上の加速は賃金上昇として労働者に利益をもたらし、1ドル分の株式資本に対するリターンはほぼ一定だ。③最も重要なこととして、投資家が成長に対して過剰に支払い、高成長国を過大評価し低成長国を過小評価するからだ。これはIBM vs スタンダード石油と同じ構造だ。
D. フィリップモリス:史上最高(GOAT)銘柄の秘密
著者は1926年以降のCRSPデータで最も成績が良かった銘柄を「GOAT(Greatest of All Time)」と呼び、表11-2に示している。首位はフィリップモリス(現アルトリア・グループ、ティッカー:MO)で1926年12月〜2021年12月の年率換算リターンは16.02%だ。2位はカンザスシティ・サザン鉄道(KSU)の14.50%、3位はバルカン・マテリアルズ(VMC)の14.21%と続く。
著者は具体的な試算も示している。1925年にフィリップモリス株を40株(1000ドル)買って配当再投資プランに参加していたとすると、2021年末には13億3000万ドルを超える価値になっていただろうとしている。配当の再投資により40株は2500万株以上となり、同社の1%以上の株式を保有することになったという。
フィリップモリスの高リターンの源泉について著者はパラドックスを示している。皮肉なことに、長期保有者にとって最高の出来事の一つが同社の財務的困難だったという。たばこメーカーへの連邦および州の訴訟が相次いで1000億ドル近くの費用を負担することになり、倒産の危機に追い込まれ株価は10年近く低迷した。しかし同社は現金を生み出し続け配当を支払い続けた。株価が安かったため株主は配当を使って株を安く買い足すことができ、この再投資された配当がフィリップモリスを宝の山に変えた。著者はウォーレン・バフェットの「最高の出来事は偉大な企業が一時的なトラブルに見舞われたときだ、手術台の上にいるときに買いたいわけだ」という言葉を引用してこの逆説を説明している。
タバコ産業全体でも同様だ。ディムソン・マーシュ・ストーントンの研究によると、1900年に市場に1ドル投資して2014年末まで保有すると年率9.6%のリターンだったが、タバコ産業に1ドル投資した場合は14.6%のリターンとなり、市場の160倍以上のリターンを得ることができた。
E. 「死に体」が宝に変化した3つの事例
著者は衰退産業や困難を抱えた企業が長期的な勝者になった事例を3つ挙げている。
- CVS(メルビル・シュー):1928年上場から2021年末までの年率リターンは12.48%(市場の9.88%を上回る)。靴メーカーが1969年にコンシューマー・バリュー・ストアーズを買収し、1996年にCVSに社名変更した。
- サッチャー・グラス・コーポレーション:1950年代初頭に牛乳瓶トップメーカーだったが、ベビーバストへの移行とガラス瓶から紙パックへの代替で業況が急悪化した。1966年にレックスオール・ドラッグに買収され、その後ダート・インダストリーズとなり、1980年にクラフトと合併し、最終的に1988年にフィリップモリスに買収された。1957年にサッチャー・グラスの株を100株買って配当を再投資した投資家は2021年末には4000万ドル以上の価値を持つことになった。
- カンザスシティ・サザン(KSU):1926〜2021年のGOATランキング2位(年率14.50%)。1887年設立。衰退産業とみられた鉄道業に徹し、経営陣も業種転換もせず134年間鉄道事業だけに専念し続けた。著者は「投資家は鉄道事業に高い評価を下すことはなく、低水準の株価のおかげでKSUは最高リターンリストのトップ近くに位置することができた」と述べている。2021年12月にカナディアン・パシフィックに買収されCRSPのデータベースから削除された。
F. アマゾンの事例:「企業に惚れるな、価格に惚れろ」
著者は1999年のドットコムマニア絶頂期のエピソードを紹介している。著者が参加したサンフランシスコの会議で、参加者が新興インターネット企業約30社のリストから「20年後に最も失敗しそうな企業」を予想したところ、圧倒的多数で選ばれたのがAmazon.comだった。参加者たちは「そりゃそうだ」と鼻で笑ったという。著者は同時期の『バロンズ』誌の「Amazon.bomb」という表紙記事にも言及している。
バロンズの記事掲載前日にアマゾンは59ドルで取引を終え、約1年半後に1株5.51ドルとなり90%以上下落した。1999年の高値まで回復するのに10年近くを要した。ただし2000年に少し我慢すれば、ITバブル頂点の価格の10倍以上のアマゾン株を買えた。著者の結論は「企業に惚れるのではなく、その価格に惚れることだ」という一文に集約される。
【検証】第4版(2005年)から第6版(2025年)への差分分析
【的中・維持】理論の骨格が20年後も保たれたもの
- 「成長と株式リターンの負の相関」の継続的な確認:この章の核心であるGDP成長率と株式リターンの負の相関は、著者が第2版(初めて報告)以来一貫して主張してきた論点だ。中国という2000年代以降の最大の「成長大国」が株式リターンで新興18カ国中最低水準にあるという事実が、第6版でこの主張をさらに強力に裏付けた。
- 「価格こそが長期リターンの決定要因」という骨格:IBM vs スタンダード石油の事例は第4版からの定番事例だ。著者はこれを2021年末まで延長しても同じ結論が得られることを第6版で確認しており、この原則の長期的な有効性が示されている。
【修正・追記】予測とのズレが生じ、説明が更新されたもの
- IBM vs スタンダード石油のデータ延長と正直な追記:第4版では2010年までのデータだったが、第6版では2021年末まで延長されている。著者は「2010年から2021年まで、両社はともにS&P500に大きく遅れをとった」と正直に追記したうえで、それでもエクソンモービルがIBMに勝り続けていると述べている。
- 中国の事例の追加:1992〜2020年の中国のGDP成長率9.3%に対して株式リターン2.7%という、GDP成長率と株式リターンの乖離の最も極端な事例が第6版で追加された。
- GOAT表の更新:表11-2は1926〜2021年のデータに更新されており、フィリップモリスの16.02%という数値も第6版特有のデータだ。KSUが2021年12月に買収されCRSPから削除された事実も第6版で追記されている。
【峻別】経済的必然 vs 時代的偶然
経済的必然(2050年でも再現可能性が相対的に高いもの)
- 「成長への過大評価」という人間心理の構造:投資家が成長に対して過剰に支払い、高成長を過大評価し低成長を過小評価するという傾向は、IBMと中国株という180年以上の時間差のある事例で繰り返し確認されている。人間の認知バイアスが変わらない限り2050年でもこのパターンは再現されるだろう。
- 株式希薄化による高成長国・企業のリターン抑制:高成長を達成するために多くの株式を発行する必要があり既存株主を希薄化するという構造は、資本主義の会計的な必然だ。
- 低バリュエーション株の配当再投資効果:スタンダード石油・フィリップモリス・KSUという3つの事例すべてで、株価が低く抑えられたことで高い配当利回りが実現し、配当再投資によって株数が大きく積み上がったという構造は、DCFモデルの数学的帰結だ。
時代的偶然(特定の条件が重なった可能性があるもの)
- フィリップモリスの「社会的に嫌われた産業の低バリュエーション」という条件の特殊性:訴訟リスクによって株価が常に低く抑えられ続けたという特殊な条件が傑出したリターンの源泉だ。同様の構造(高キャッシュフローを持ちながら社会的・規制的に嫌悪されて低バリュエーションになる産業)が2050年に向けてどの産業で再現されるかは、その時代の政治・社会的文脈に依存する。
- KSUの地政学的独占という条件:著者は「投資家が鉄道事業に高い評価を下さなかった」ことがKSUの高リターンの源泉だと述べている。ただしKSUが持つメキシコと米国・カナダを結ぶ物流の独占的ポジションはNAFT(北米自由貿易協定)という政策的文脈とも結びついており、純粋なビジネスモデルの優秀さだけとは言い切れない側面がある。
- 米国市場200年というサンプルの限界:GOAT銘柄のデータはCRSPに基づく米国市場のデータだ。同期間に長期低迷した他国市場での同様パターンの再現性は未検証だ。
【批判】2050年への死角
- 現行記事の「バリュー優位論の崩壊」という断言の問題:現行のa013-2記事では「ビッグテックの台頭によりシーゲルの『バリュー優位論』が崩壊した」と断言しているが、原文をよく読むと著者自身は「2010年から2021年まで両社がS&P500に大きく遅れをとった」という事実は認めつつも、バリュー投資の原則そのものを放棄していない。著者の結論は依然として「企業に惚れるのではなく、その価格に惚れることだ」であり、この原則はビッグテックにも適用される。「当時の価格で買えたなら」という条件付きであれば、バリュエーションが割安だったタイミングで買ったビッグテック株も著者の原則と矛盾しない。
- 「高成長企業はいつも過大評価される」という前提が崩れるシナリオ:著者の主張は「成長に対して投資家は過大評価する傾向がある」という認知バイアスの存在を前提としている。市場の効率性が高まりアルゴリズム取引が主流になった環境では、この認知バイアスの度合いが変化する可能性がある。
- 生存者バイアスの問題:表11-2で紹介されている「1926年以降で最もパフォーマンスが良かった銘柄」は、1926年時点から2021年まで存続した企業のリストだ。同じように「低PERで斜陽」と言われながらそのまま消えていった企業のデータは含まれていない。著者はこの点について明示的な反論を提示していない。
- GDP成長率と株式リターンの負の相関の理由が複合的である可能性:著者が挙げる「希薄化・賃金上昇・過大評価」という3つの理由のうち、中国の事例では政治リスク・資本規制・会計の不透明性なども大きな要因であり得る。これらを「過大評価」に起因するものとして一括りにすることが2050年の多極化する世界で有効かは検討の余地がある。
【評価】第11章の評価軸
| 評価 | 論点 | 判断の根拠 |
|---|---|---|
| 【信】Core Theory | 「成長への過大評価」という人間心理の構造、および低バリュエーション・高配当利回り株の配当再投資による長期優位性。著者の結論「企業に惚れるのではなく、その価格に惚れることだ」 | IBM vs スタンダード石油・中国株・KSUという異なる時代・産業・国のデータで繰り返し確認されている。2050年でも有効な普遍的原則だ。 |
| 【疑】Variable | GDP成長率と株式リターンの負の相関が2050年以降の新興国市場でも成立するという前提 | 中国の事例は政治リスク・資本規制という特殊条件も含む可能性がある。新興国市場のガバナンス改善・株主重視の法整備によってこの相関が変化するシナリオは排除できない。 |
| 【棄】Bias | フィリップモリスの傑出したリターンを「再現可能な投資原則」として一般化する姿勢 | 訴訟リスクによる恒常的な低バリュエーションという条件は特殊だ。「社会的に嫌われた産業」を探して投資するという戦略の再現性は、その時代の政治・社会的文脈に大きく依存しており普遍的とは言えない。 |
まとめ
本に記述された事実と変遷
第11章の核心は「長期リターンを決めるのは成長率ではなく価格(バリュエーション)だ」という一貫した主張だ。数値の確認として、IBM vs スタンダード石油の年率リターンはIBMが12.98%に対しスタンダード石油が14.48%。1万ドル投資でスタンダード石油は3300万ドル超に対しIBMは1500万ドル近く、インデックスは500万ドル弱。スタンダード石油の株数積み上げは11.87倍に対しIBMは3.63倍。フィリップモリスの1926〜2021年の年率リターンは16.02%。1925年に1000ドル投資→2021年末に13億3000万ドル超。GDP成長率と株式リターンの相関係数は先進17カ国でマイナス0.32。中国のGDP成長率9.3%に対し株式リターンは2.7%(新興18カ国最低水準)。タバコ産業の1900〜2014年の年率リターンは14.6%に対し市場全体は9.6%。CVSの年率リターン12.48%(市場9.88%)。サッチャー・グラスを1957年に100株投資→2021年末に4000万ドル以上。アマゾン:バロンズ記事掲載前日に59ドル→約1年半後に5.51ドル(90%超下落)。
将来への持論と方針
「企業に惚れるのではなく、その価格に惚れることだ」という著者の結論は信じてよい。IBMのような「明らかに優れた成長企業」が60年間「退屈な石油メジャー」に負け続けたという事実は、成長投資の誘惑に対する最も強力な警告だ。
高配当株をポートフォリオの軸に据える方針は、この章の論理と一致している。スタンダード石油・フィリップモリス・KSUがいずれも「低バリュエーション・高配当利回り・配当再投資効果の最大化」という共通構造で長期リターンを実現した事実は、配当再投資を実践する上での理論的根拠となる。
一方でGDP成長率と株式リターンの負の相関については、「過大評価されていない市場・国・セクターを探す」という視点として活用しつつも、中国株のように政治リスク・資本規制という別の要因も絡む場合があることを忘れないようにしたい。
最終的な結論は全章を読み終えてから出したい。
それでは。
※本記事は刊行時の記述と、著者自身による修正履歴の確認に基づいています。将来の投資環境についての記述は個人の見解であり、予測を保証するものではありません。
【免責事項】本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資は元本割れのリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。


